とにかく書いておかないと

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『三四郎』読書メモ⑨

2024-10-24 06:51:15 | 夏目漱石
夏目漱石の『三四郎』の読書メモ。今回は九章。

三四郎は精養軒の会に出る。学者サロンといっていい会である。物理学の話になる。広田が「どうも物理学者は自然派じゃ駄目の様だね」と言う。物理学者はただ自然を観察しているだけでは駄目で、人工的な装置を作り、それによって普通の自然界では見出せないものをみえるようにしているというのである。その意味で物理学者は浪漫的自然派だと言う。これはイプセンの劇のようだが、人間は自然の法則にしたがってばかりではないと議論は進む。

当時の文壇では自然主義と浪漫主義の対立があったわけだが、漱石はそのどちらかに偏るわけではない。『三四郎』は念入りの仕掛けを用意して、その中で登場人物たちは動いている。それを語り手が語るという構造だ。この語り手の視点は三四郎に焦点化され、三四郎の思考の外にあるものは、基本的には解釈を与えられない。与えられた仕掛けのなかで三四郎がどう考え、どう動くかを観察しているような小説なのである。精養軒の会の議論は『三四郎』の構造を論じている場でもあると言えよう。

帰り道与次郎が借金の言い訳をし出す。三四郎はどうせ返す事はあるまいと思っている。こういう鷹揚さが三四郎の不思議さである。与次郎は金を返さないから関係が続くと思っているようである。だから美禰子からもいつまでも借りておいてやれという。逆に言えば金を返すというのは関係を切るということでもある。

三四郎は美禰子への借金を返すために、母親に金を送れと手紙を書く。その返事がやってくるが、金は野々宮に送ったから野々宮から受け取れとある。野々宮の家にいく。途中よし子と出会い、よし子も野々宮に用があったので、ふたりで野々宮の下宿に向かう。

三四郎は野々宮から金を受け取る。よし子の話は縁談だった。よし子に縁談の口があるというのだ。これは後でわかるが、この縁談をよし子が断り、その相手の男は美禰子と結婚するののである。よし子が断ったから美禰子が結婚するのだ。よし子と野々宮はこの後里見家に行く。その時縁談話が急展開し決定していくのだと推測される。縁談も借金のようにたらいまわしにされていくのである。問題は美禰子がこの縁談をなぜ受け入れたのかである。ここは想像する甲斐のある場面であろう。
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