とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

フロリアン・ゼレール作『La Mère 母』を見ました。

2024-04-16 17:37:34 | 演劇
東京芸術劇場シアターイーストでフロリアン・ゼレール作『La Mère 母』を見ました。現実と幻想の狭間の人間を描く、緊張感あるすばらしい舞台でした。

家族のために人生をささげてきた母。しかし大切に育てた息子は自分で暮し始め、彼女もでき次第に母から離れていきます。愛情過多の母が次第に鬱陶しく感じてもいるようです。夫にも愛人がいるようです。夫の嘘が心を突っつくように感じます。母は自分が生きがいとしていた家族に去られ、いつしか精神を病み幻想を見始めます。演劇はその幻想と現実の狭間を描き、事実がどこにあるのかがわかりません。観客は追い詰められていく母の姿を見詰めることによって、家族という不思議な存在を考えざるを得ません。非常に悲しく残酷な演劇です。

主演は若村麻由美。愛情過多であり、孤独を怖れる女性を見事に演じています。父親役の岡本健一もやり過ぎない演技で舞台を引き締め、若村麻由美との距離感を見事に作り出しています。息子役の岡本圭人も微妙な心理をうまく演じています。

引き締まった舞台であり、なおかつ心の迷宮に迷い込む感覚になります。名舞台です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NTL『ディア・イングランド』を見ました。

2024-04-15 17:45:51 | 映画
NTLというのは、イギリスの国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターが厳選した名舞台を映像化して映画館のスクリーンで上映する「ナショナル・シアター・ライブ」のことです。毎年数本が上映されます。その最新作『ディア・イングランド』を見ました。サッカーを題材にしているので、試合の場面など処理をどうするのか心配だったのですが、見事に処理され、逆に演出の手際のよさが目立つ作品に仕上がっていました。映画ファンも、演劇ファンも必見です。

サッカーの実在のイングランドチームを描くドキュメンタリー的な要素ももつ作品です。長い間低迷していたイングランドチームに、ガレス・サウスゲートが代表監督に就任します。サウスゲートはかつてイングランド代表チームの選手でした。彼はワールドカップでPKを外し、戦犯のような存在となっていました。サウスゲートは、代表チームを大きく改革します。中でも大きな改革は選手の心理面を重視し、カウンセリングを導入します。順調に成績を上げていきますが、やはりすべてがうまくいくわけではありません。時には内部の衝突もあります。しかし進むしかない。成功と失敗を繰り返しながらイングランドチームは進んでいきます。

現在でもサウスゲートは代表監督ですし、ここに出ている選手も多くがまだ現役代表のようです。ですからイングランド代表の応援演劇ともなっているのです。しかしそれだけではありません。特に描かれるのはPKです。決めて当たり前のPKを外してしまうシーンが数多く出てきます。人間の心の弱さと、それを克服しようと努力する精神力のぶつかり合いが心を打ちます。

エンターテイメント要素の強い演劇ですが、しかし深い作品です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シスカンパニー公演『カラカラ天気と五人の紳士』を見ました。

2024-04-14 10:51:46 | 演劇
 作:別役実、演出:加藤拓也、出演:堤真一、溝端淳平、藤井隆、野間口徹、小手伸也、中谷さとみ、高田聖子という豪華絢爛の公演『カラカラ天気と五人の紳士』を見ました。笑いながら、怖い世界に突き進む作品でした。傑作です。

 昔、NHKの「おかあさんといっしょ」の中で、週1回「おはなしこんにちは」というコーナーがありました。その中で不思議な童話が読まれます。子供のころ私はそのコーナーが大好きでした。中学生か高校生になり、図書館に行くと『淋しいおさかな』という童話集がありました。そしてその童話集に「おはなしこんにちは」の童話が載ってのっていたのです。そしてその本の作者が別役実さんでした。

 そこから私は別役実さんのファンになりました。別役さんが劇作家で、不条理劇を書いていることも後から知りました。別役さんの不条理劇は難解なものが多く、よく理解できいことが多かったのですが、学生で東京に住んでいたころ、何度か見に行きました。やはり難解で、しかも静かな演劇で、別役さんの芝居からは遠ざかっていました。「不条理」という言葉はよく耳にしますが、実感としてなじまないことが多く、ベケットなどもよくわからないままでした。

 しかし年を取るにしたがって不条理が少しずつ実感できるようになってきました。人生は不条理です。理屈通りに行くことなんかありません。不条理の中で生きていくしかないのです。というよりも本来人間の生きていく意味などないのです。生きていくというのは死を待つための暇つぶしでしかないのかもしれないのです。

 この芝居も笑いが絶えません。昔見たコント55号のコントみたいです。しかし、私たちが真面目にやっているつもりの毎日の仕事や生活も、実は宇宙人から見たらおかしなことにしか見えないでしょう。この芝居はそのことに気付かせてくれます。

 残りが少なくなってきている自身の人生、これから何をしていくべきか、そんなことを考えさせられてしまいました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

舞台『善き人』を見ました

2024-04-12 08:09:25 | 演劇
 世田谷パブリックシアターで上演された舞台『善き人』を見ました。ナチに取り込まれていく過程が自分にも同じようなことがあるのではないかと思わせ、ラストシーンのすごさに圧倒される作品だった。ただし、準備不足を感じさせる舞台でもあった。

 ベルリンの大学で講師をしているジョン・ハルダーは、過去に書いた安楽死に関する小説を、ヒトラーが気に入ったことからナチスに取り込まれていく。彼はナチスに入党せざるをえなくなり、ユダヤ人の友人モーリスとも次第に溝が深まっていく。モーリスの国外逃亡を支援するが、彼は捕らえられて収容所に送られる。ジョンは、職権を利用してモーリスが送られたとされる収容所に向かう。そこでユダヤ人たちの悲惨な状況を目にする。そしてユダヤ人たちの奏でる美しい音楽に遭遇する。

 このラストシーンがすばらしい。人間が生きていくと気づかないまま流されて巨大な権力に取り込まれてしまう。それが社会なのだ。しかしナチスなど、根本的な「悪」に取り込まれてしまったら、それは後戻りのできない大きな罪悪となる。そうならないために批判的な眼を養う必要がある。ジョンは批判的な眼はもっていた。しかしそれを発揮する勇気は持っていなかった。そんな弱さこそがこの演劇の注目点である。ラストシーンはそこに集約していく。だから思い。

 ただし、途中の完成度が低い場面が多い。まずは歌がまだあぶなっかしくて聞いていられない。しかもセリフが「セリフ」であり、自分の言葉になっていない箇所がある。稽古時間が短いまま本番を迎えてしまったのではないだろうか。厳しいことを言うようだが、結構高いチケット代である。しかもすでに高い評価を得ている戯曲である。残念である。公演中であるが完成度を上げてもらいたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画『ブルックリンでオペラを』を見ました。

2024-04-10 07:33:55 | 映画
映画『ブルックリンでオペラを』を見ました。アメリカ映画の題材探しの苦悩を感じてしまいました。

アン・ハサウェイ、ピーター・ディンクレイジ、マリサ・トメイら私の様な特別な映画好きでないものでも何度か見た事のある有名俳優をそろえた映画です。登場するのは修道女にあこがれる精神科医、オペラを書けないオペラ作曲家、恋愛依存症に苦しむ船舶士、なんでも法律で解釈してしまう速記師など、一癖ありそうな人たちばかり。こんな人たちが困難を乗り越えていくというプロットの映画です。

この映画、私にはコメディなのか、シリアスドラマなのかわかりません。無理やりに筋を作ってしまったというような苦しさが感じられてしまいます。現代のアメリカの問題をつまみ食いのように取り上げ、とりあえず一本の映画を作ってみましたという感じしかないのです。

従来の映画を作れば当然ハラスメントが含まれてしまいます。かといって社会問題を真正面に扱うと重い映画になってしまいます。一般受けする映画をつくろうとしたらこうなってしまったという映画なのかと感じてしまいました。
 
劇中劇のオペラはけっこうおもしろそうでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする