2023年5月21日 犬木溜池
犬木溜池は長崎県諫早市高来町西尾にある灌漑目的のアースフィルダムです。
諫早湾北岸の諫早市小長井町から高来町にかけては多良岳火山活動で形成された傾斜地が海岸線まで続き平坦地はほとんどありません。
明治末期から丘陵地の新田開発が進められ、犬木溜池は諫早市高来町の田島川と小江川に挟まれた丘陵上の開拓に合わせて建設されました。
ダム便覧には犬木水利組合の事業で1924年(大正13年)に竣工と記されている一方、現地改修記念碑は『明治四十二年着工大正二年にかけて築造され』と刻されています。
思うにダム便覧は1913年(大正2年)を大正13年と読み違えたのでは??
事業者は受益者で組織された水利組合、つまり受益農家の持ち出して建設されたと思われ現在も犬木水利組合が管理しています。
ダム便覧では位置未確認となっていますが、『犬木ため池 地震時ハザードマップ』で位置が特定できます。
池の下流に建つ圃場整備の碑
池と直接関係はありませんが、受益水田の圃場整備事業の竣工記念碑です。
水田の土手は凝灰岩が積まれ見た目にも美しい棚田。
棚田越しに溜池を見上げます。
堤を築いたというよりはもとあった丘陵地を掘り込んで建設されたようです。
ダム便覧では堤高15メートル、一方ため池データベースでは堤高11.2メートル。
見た目にも15メートル以上の高さがあるとは思えません。
堤体直下を灌漑用水路が流れます。
迂闊にも底樋管は未確認。
右岸から天端へ。
湖畔に建つ1981年(昭和56年)の県営老朽化ため池等改修事業の竣工記念碑。
文頭の1913年(大正2年)築造をはじめ池の由来が刻されています。
堤体は美しい円を描く逆アーチ
ちょうど草刈り作業中に訪問、昼休みを見計らっての見学です。
池の下流には受益農地が広がり、諫早湾をはさんで正面には雲仙。
圃場整備で区画整理された美しい農地が広がります。
諫早湾干拓事業によって建設された延長7キロの潮受け堤防も遠望できます。
有明海の自然環境に大きな影響を与え漁業やノリの養殖に悪影響が出る一方、台風の度に高潮や洪水被害を受けていた諫早の防災には大きく貢献しています。
万民が等しく恩恵を受ける事業などこの世には存在しません。
ただ公共事業反対と声を上げるのではなく、私たちは優先順位をどこに置くかで折り合いをつける必要があります。
総貯水容量4万3000立米。
田植えを控えほぼ満水。
池の流入口。
堤体中央の階段式池栓。
諫早の溜池はこのタイプの取水設備が多い。
左岸から
構造的に堤体中央に水圧がかかる逆アーチは合理的ではありませんが、見た目の美しさは格別。
左岸の洪水吐。
ため池データベース編集の際に測量が行われたようで、その際の堤高11.2メートルを採るなら河川法のダムの要件は満たさないことになります。
一方で、下流から見上げても天端から見ても逆アーチの曲線が美しく、心に残る溜池です。
2587 犬木溜池(2002)
ため池コード 422040039
長崎県諫早市高来町西尾
田島川水系田島川右支流
A
E
15メートル(ため池データベース 11.2メートル)
180メートル(ため池データベース 203メートル)
43千㎥/43千㎥
犬木水利組合
1913年(現地記念碑)
1924年(ダム便覧)