数日前の話です。
息抜きの散歩の途中、ブック○フに寄ったんです。
何か面白い本はないかと、書棚に沿って奥へ奥へと移動。
碁盤の目のように正方形、ではなく、長方形の書棚を区切るように通路が交差していて、
私は店のほぼ一番奥の棚の前で文庫本の背表紙を目で横に追っていたんです。
すると。
賑やかな店内放送の音楽(宇多田ヒカルだったはず)に混ざって男の人の声で、
「死にたい」
目の前にある書棚の向こう側から聞こえてきた。
その瞬間全身硬直、心臓まで引き攣ったのがわかったわ。
全身を耳にして書棚の裏側に意識を集中。
棚の真裏から、
「死にたい、死んでしまいたい、死んでしまいたい」と、誰かの声がする。
空耳ではない。
若くもなく、高齢でもない、男の人の声だ。
ど、どうする、どうすればいい。
巻き込まれたくない、放っておくのは人道的に問題がある、でも私になにができるというんだ。
数秒だったと思います、アタマの中を光よりも速くいろいろなことが飛び交い、
出した結論は、まずは様子を見に行き、どんな状況なのかみて、それからまた考え判断しよう。
さきほども書きましたが、私がいたのは店の奥、縦と横の通路が交差する地点。
意を決し、通路を移動し、書棚の向こう側(裏側)にまわってみると、
誰もいない。
がらんどう。
これはドッキリか?
それとも声の主は移動したのか?
ひょっとしたらと、
反対側(先ほどの私の立ち位置からすると正面の棚ではなく背中側の棚の向こう側)かもしれないと、
そちらにおそるおそる移動してみたら、
いた。
その人が声の主なのかどうかはわからないけれど、とりあえず全身から負のとぐろのようなオーラはでていない。
通路にしゃがみこんで本を読んでいる。
そういえばこの男の人、さっきもブツブツ「バッハバッハ」とか独り言を言っていたのを覚えている。
声に出して読みたかったのか、何が何なのかわからないけれど、
少なくとも死んでしまいたいと思いつめているようなふうには見えなかったのでそれ以上深追いはしなかったけど。
心臓に悪すぎだ。
でもこの人、いや、この人なのかどうかも定かではないんだな…。