消行方という表現
令和3年5月21日(金)
ほとゝぎす
消行方や
嶋一ツ
時鳥の姿が消えゆく方向に、
島影が一つ見える、の意。
貞享五年作。
鉄拐が峰から淡路島を眺望した句。
柿本人麻呂の
「ほのぼのと 明石の浦の
朝霧に 島隠れ行く
舟をしそ思ふ」
◎ 「消行方」という表現をしたのは、
島が素早く飛び、あっという間に
消えてしまう鋭さが見事に表現
されている。
無論、鳴き声も耳元で鳴いたか
と思っているうちに、遙か彼方で
声が聞こえる。
姿と声とが一緒になって消える速さに
人生の無常さえ言い当てている。
姿と声が消えた先には、海があった。
『笈の小文』の中の一句で、
鉄拐山から見えるものとすれば、
淡路島を見たということになるが、
「嶋一ツ」と限定を避けたために、
景色の世界がぐんと広くなった。
句の表現も古歌を援軍に
引き出してくる手法も秀逸である。