この病院の天窓から見上げる空は真夏の様子。ぼくは久々に力なく、風も吹かない病室のベットで横たわっていた。
周りには知り合いも居ない。気持ちがとてもラクでなんでもできる気分だけど、全く無力だと感じることの方が強いことにも気が付いていたんだ。
看護師さんが運んで来る点滴セットにも感動を覚えたり、神経ブロックするための注射バリにも心震わせたりしてる。
確かに痛みはなくなった。
その代わりに無くなったものが無いかと考えるようになってしまった。
どこかで猫の鳴き声が聞こえたような気がしたけれど空耳のようだ。新太郎のことを思い出す。後悔だけどね。家の飼い猫ではない。近所に住む猫嫌いの主婦がかってた猫だ。暇さえあれば僕の家のベランダで眠っていた。とても穏やかで優しいねこだった。ただ、抱きしめられるのが好きじゃなかった。ある時、むずがる新太郎を抱きしめようとむきになってしまった。成されるままにならぬことに腹を立てた僕は彼の頭を殴りつけてしまった。はっ!としたけれどすでに遅かった。それ以来、微妙だった距離感は縮まることがなかった。
よくあることだ。
人間社会では無理を通せばカドがたち、疎遠になっていく。かと言って不愉快な関係に耐える必要などどこにもない。
ただ相手は人間なんだから口はきける。言葉は大切な手法。
改善の余地はある。
でもそこには時間が必要な要素として存在している。
そう、タイミングなのだ。
絶妙とも言えるタイミングがすべてを支配している。
この感性が誰もが持ち得ているのに発揮できないでいるのだ。
そう、どれだけそのタイミングを外してきたかわからない。
さてさて、僕は、どうしようとしているのだろう・・・・