ロック探偵のMY GENERATION

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ストーン・ローゼズの名曲を振り返る+α

2021-10-27 16:20:28 | 過去記事

The Stone Roses - Made of Stone

今回は、音楽記事です。 例によってしりとり方式で、前回のスカボロー・フェアからの関連で、The Stone Roses について書きましょう。 どういうつながりかというと…… スト......



過去記事です。
ストーン・ローゼズについて書いています。

今回も、プラスアルファとしてストーン・ローゼズの曲をいくつか。


まずは、元記事の内容に関連する曲を三つ。
いずれも、ストーン・ローゼズ20周年記念アルバムの音源から。


元記事で話のマクラとして出てきた Elizabeth My Dear。
短い曲ですが、スカボロー・フェアと同じメロディなのは聴けばあきらかでしょう。

The Stone Roses - Elizabeth My Dear (Audio)

元記事でも書いたとおり、この歌は英国王室批判と解されます。
「彼女が王座を失うまで俺に休息はない」と歌っていますが、その彼女は今なお王座に居座ったまま。なるほど休息はないわけです。


Guernica。
ローゼズは、逆回転の手法を用いた曲をいくつか発表していますが、この曲は Made of Stone を逆回しにしたオケに歌をつけたもの。
かつては実験的な手法だった逆回転も、時を経て“伝統の技法”となる……ロックがそんな屈折を抱えるようになった時代に一つの革命をもたらしたのがローゼズでした。


The Stone Roses - Guernica (Audio)


ちなみにタイトルは、日本語では「ゲルニカ」と表記される単語。
いうまでもなく、ピカソの絵がモチーフでしょう。また、この伝説的な絵画にまつわるさまざまなエピソードも意識にあったかもしれません。
ローゼズがやったほかの逆回転曲には Full Fathom Five というジャクソン・ポロックの絵のタイトルをつけたものもあったりします。そういうアートなところがあるのです。ジャクソン・ポロックに関しては、別の歌で歌詞中に名前が出てきたりもしていて、特にお気に入りのようで…


Bye Bye Badman。
元記事で出てきた「五月革命の闘士」に触発されて作った歌といいます。

The Stone Roses - Bye Bye Bad Man (Audio)

  俺はお前に石を投げつけているんだ
  お前を傷だらけにしたい
  血を流させてやりたい

と、歌われます。
運動を弾圧する警官に向けてということだと思われますが……ローゼズにはこういう過激なところもあるわけです。
ストーン・ローゼズのバンド名の由来は諸説ありますが、その一つとして「石のように硬いものと薔薇のように柔らかいもの」ということだという説明があります。ラブ&ピース的な愛や連帯を歌う‟薔薇”の部分と、抑圧的なシステムに対する怒りを乗せて投げつける“石”……とするならば、この歌は“石”のほうといえるでしょう。


ここからは、代表的な曲を。

まずは、ジョイ・デイヴィジョン~ニュー・オーダーのピーター・フックがプロデュースした 3rdシングルElephant Stone。


The Stone Roses - Elephant Stone (Live in Blackpool)


ピーター・フックや、ファースト・アルバムをプロデュースしたジョン・レッキ―といった人たちの名前から、ストーン・ローゼズが、直接にはパンク~ポストパンクの流れを受けて出てきたバンドだということがうかがわれます。
60年代ラブ&ピースと、パンク……相反するはずの二つの要素を、ストーン・ローゼズはあわせもっています。それがつまりは、薔薇と石ということなのかもしれません。
ジョン・レッキ―は60年代から音楽業界にいて、ビートルズやピンク・フロイドなどのレコーディングにも関わった経験があり、そのあたりのことも関係あるでしょう。



I Am the Resurrection。
このタイトルは聖書の一節からきています。
ヨハネ福音書11章25節。「わたしは復活であり、命である。わたしを信じる者は、死んでも生きる」……
そういう宗教がかった内容を歌う歌かと思わされますが、歌詞の全体を読んでみるとそういうわけでもなさそうです。
ものの本によれば、英語圏では葬儀の際に牧師がこの句を詠唱するそうで、すなわちこのタイトルのいわんとするところは「南無阿弥陀仏」とかそういうことで、「あんたはもう終わりだ」とか「さっさとくたばれ」の婉曲表現だと。それが、ローリング・ストーンズに向けられたものではないか、と「ものの本」は推測していました。
肥大化した商業主義ロックの象徴としてのストーンズに対する批判……ローゼズには、ストーンズから前座のオファーを受けてそれを蹴ったという因縁もあります。パンクの立ち位置からすれば、ストーンズは全否定の対象ともなりうるのです。ストーン・ローゼズのバンド名の由来として、stone の部分はローリング・ストーンズからとったものという説がありますが、こうしたことを踏まえると、それはいささか怪しいように感じられます。むしろストーンズは、石を投げるべき対象とみなされているのかもしれません。

The Stone Roses - I Am the Resurrection (Live In Blackpool)


動画では、“タコ踊り”で有名なクレッサの姿もみられます。
この人がなんのためにステージ上にいるのかというのはローゼズをめぐる謎の一つですが、これもやはり「ものの本」情報によると、彼はギターのエフェクトなんかをいじっているそうです。ローゼズのギタリスト、ジョン・スクワイアはマルチエフェクターを使用しているそうで、その設定変更をクレッサが担当しているのだとか。ただ、この動画では、スクワイアがフェーザーを自分で踏んでいるようにも見えますが……クレッサはあるときふいに姿をみせなくなったという話もあり、本当のところは正直よくわかりません。


代表曲の一つ I Wanna Be Adored。

The Stone Roses - I Wanna Be Adored (Official Video)


この歌では、「僕は魂を売ったりする必要はないんだ」と歌われます。
この拝金主義批判というスタンスが、ストーンズ批判というところにもつながっていくわけでしょう。お前たちは魂を売ったじゃないか――と。


拝金主義批判という点では、もっとはっきりしているかもしれない Fool's Gold。これも代表曲でしょう。

The Stone Roses - Fools Gold (Official Video)


Fool's Gold とは、黄鉄鉱のこと。
見た目が金に似ていて、愚か者が黄金と間違えてありがたがるということで「愚者の黄金」とも呼ばれます。


  僕は一人立っている
  あんたたちは金をはかりにかけている
  僕はあんたたちが沈んでいくのを見ている
  愚者の黄金


ここで歌われることは、レッド・ツェッペリン「天国への階段」に登場する「輝くものはすべて黄金だと信じている女」に通じるのではないでしょうか。
パンクの立場から見ればツェッペリンも否定の対象ということになりますが……ジョン・スクワイアはツェッペリンのCommunication Breakdown を聴いて「最初のパンクソングだ!」と思ったといいます。
まあ時代がどうこうなどというのは、そんなもんでしょう。
ジョンは、パンクスたちがそれ以前の音楽を否定するような態度をとっていたのはある種の「嘘」だったというようなこともいっていますが、そういう部分があるのもたしかだと私には思われます。
ジョンとボーカルのイアン・ブラウンはクラッシュの大ファンだといいますが……Fool's Gold では、ジェームズ・ブラウンの曲から借用したドラムループが使われており、ジョンのギターはバーズの影響が指摘され――と、ストーン・ローゼズには時代のごった煮的なところがあります。考えてみれば、スカボロー・フェアで民謡の世界にまで踏み込んでいるわけなので、たかだか2、30年の時代の違いなど誤差の範囲といえるでしょう。
そうしてごった煮にすることによって、時代性やらジャンルの違いやらといったことと関係なく貫かれている何かが浮かび上がってくる。そして、そのゆえにこそストーン・ローゼズは、たった一枚のアルバムで「ロックの歴史を変えた」とまでいわれる存在になったのです。