今回は、音楽記事です。
例によってしりとり方式で、前回のスカボロー・フェアからの関連で、The Stone Roses について書きましょう。
どういうつながりかというと……
ストーンローゼズのアルバム『ストーンローゼズ』には、Elizabeth My Dear という曲が収録されていますが、これはメロディーがスカボロー・フェアそのものなのです。
トラディショナルソングというのは自然発生的に出てきたものなので、同じ曲に違う歌詞がついていたり、似たような歌詞が違うメロディで歌われていたりということがよくあります。パブリックドメインという扱いになり、著作権的な問題も生じません。したがって、ローゼズが別の歌詞をつけて歌ってもかまわないわけなんです。まあ、作曲者のところに自分たちの名前がクレジットされているのはどうなんだということもあるんですが……
しかしながら、取り上げるのは、この Elizabeth My Dear 自体ではありません。
Made of Stone という曲です。
ローゼズの代表曲の一つということと……もう一つ理由がありますが、その点については後述しましょう。
ストーンローゼズは、“マッドチェスター”と呼ばれるムーブメントを代表するバンドの一つ。
Made of Stonは、そのストーンローゼズのバンド名を冠したファーストアルバムに収録されています。
このアルバムは、ローゼズの代表作で(といっても、そもそもアルバム二枚しか出してないんですが)「ロックの歴史を変えた」とまでいわれ、かなり高く評価されているアルバムですが、そのなかでもハイライト的な位置づけにあるのが、この Made of Stone なのです。
彼らの公式YouTubeチャンネルにライブ映像があったので、それを貼り付けておきましょう。
The Stone Roses - Made of Stone (Live in Blackpool)
この選曲は、以前アジカンの記事でも書いた、ロックと社会性というテーマにもつながってきます。
はっきり書いてるわけではありませんが、この歌は社会の問題に無関心な人に、それでいいのかと問いかける歌とも解釈されるのです。
ときどき思うんだ
通りは寒々として孤独で 車が燃えているってのに
こんな時代に お前は目をむけないのかい
通りは寒々として孤独で 車が燃えているってのに
お前は一人きりかい
誰か家で待ってくれてる人はいるのかい
ローゼズの活動した時代は、セカンド・サマー・オブ・ラブなどといわれたりもします。
60年代サマー・オブ・ラブがあり、そこからパンクの勃興があり、ポストパンクがあり、一周してもとに戻ってきた感じです。
サマー・オブ・ラブは、若者を中心とした社会運動だったわけですが、セカンド・サマー・オブ・ラブにもそういうところはあります。
その一環とも考えられるのが、アルバムジャケットにあしらわれた輪切りのレモン。
これは、ローゼズのメンバーが、あるときパリ五月革命の闘士に話を聞き、催涙ガスから逃れるためにレモンを装備していたという逸話にインスピレーションを受けたからだそうです。
レモンに催涙ガス対策の効果なんてあるのかと思われるかもしれませんが……そういう噂は学生運動盛んなりし頃のわが国にもあったそうで、当時デモに参加する学生たちのなかにもレモンの輪切りを持ち歩く人がいたそうです。そのあたりのことを、歌人の道浦母都子さんは次のような歌に詠んでいます。
催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり
これと同じフィーリングを、ローゼズの面々も五月革命の挿話から感じ取っていたのではないか。
それが、アルバムジャケットのレモンなんじゃないかと思えます。バンド名/タイトルの隣にフランス国旗のトリコロールが添えられているのも、そう考えるとうなずけます。
このアルバムには、直截的に社会を批判するような歌はありません。
あえて挙げるなら、最初に紹介した Elizabeth My Dear がかなり辛辣な英王室批判になっているというぐらいでしょうか。それ以外では、 Made of Stone の歌詞がそのようにもとれるというぐらいで……しかしながら、こういう微温的ともいえる態度が、「胸で不意に匂えり」というレモンのイメージにあっているように思えます。ほかの収録曲も含めた歌詞のイメージからすると、政治批判というよりは、拝金主義的な世の中を批判するというようなトーンが優勢のようで、そのあたりがレモンな感じだったんじゃないでしょうか。
Made of Stone に話を戻すと、この歌の最後は Are you made of stone? と結ばれます。
これが曲のタイトルにもなっているわけです。
お前は石でできているのか。
他人の痛みに目を向けず、自分の金もうけのことしか考えないのか。そんなお前に、家で待ってくれる人がいるのか――この歌は、そんなふうに問いかけているように私には聞こえました。
80年代ぐらいから、世界中にそういう傾向が広がっていったことが背景にあるのではないかなとも推測されます。
その傾向は、それから年を経るにつれてだんだん強まっているようで……ローゼズは10年ほど前に再結成したわけですが、それにあわせてアルバム『ストーンローゼズ』がチャートを急上昇したというのも、単に再結成に対するご祝儀というだけではないのかもしれません。
やはり彼らも、この時代のカナリヤなのでしょう。
で、最後に、この曲をとりあげるもう一つの理由なんですが……
じつは、 Made of Stone は、トミーシリーズゆかりの曲でもあるのです。
これまで何度か紹介してきた幻の(笑)連作短編『トミーはロック探偵』のなかに、この曲をモチーフにした一作がありました。
そういうわけで、今回は特に Made of Stone を取り上げた次第です。例によっての我田引水ではありますが……