今回は、音楽記事です。
依然として、プログレ系かつ、“今年で50周年を迎える名盤”ということでやっていこうと思うんですが……さすがにそろそろネタ切れな感じになってきたので、ここでぎりぎりなところをついていきます。
ジェスロ・タルの『パッション・プレイ』です。
ぎりぎりなのは、『パッション・プレイ』が名盤かということよりも、ジェスロ・タルがプログレなのかというところ。
一般的にはどうかわかりませんが、私の場合、ジェスロ・タルは果たしてプログレといえるのだろうかと思ってしまう部分も個人的にはあります。
たしかに、形式的なところをみれば、プログレの要素はいろいろあります。
ジェスロ・タルの大きな特徴はなんといってもフルートが入っていることですが、フルートが入っているといえば初期のキング・クリムゾンがそうだったわけで……これが、どこか幻想的な雰囲気を醸し出したり、クラシック風の格調をもたせたりする、プログレ要素の一つでしょう。
そして、アルバム『パッション・プレイ』は、組曲形式になっていて、アルバム全体で一曲という構成。こういうのは、クリムゾンもピンク・フロイドもイエスもELPもやっていました。まさにプログレの流儀といえます。ついでにいうと、“パッション・プレイ”とはイエス・キリストの受難劇のことで、そういう題材を取り扱うところも、ELPの「聖地エルサレム」のようで、プログレ感があります。
そのオーディオ動画を載せておきましょう。
A Passion Play (Pt. 1) (2003 Remaster)
A Passion Play (Pt. 2) (2003 Remaster)
A面がパートⅠで、B面がパートⅡとなっており、アルバム全体で一曲となっています。
クリムゾンやピンクフロイドなどもレコードの片面丸ごと一曲というのはやってましたが、アルバム全体で一曲というのはなかったんじゃないでしょうか。
となると、ジェスロ・タルはよりプログレしてるといえるかもしれません。
しかし……これだけプログレ要素がそろっていても、やはり私はジェスロ・タルを“プログレのバンド”と呼ぶのには違和感をぬぐえないのです。
この人たちの場合、どっちかというともう少し前の世代のロックンロールの影響が強いように感じられ、そのあたりで、プログレというカテゴライズを躊躇してしまうのかもしれません。
前に一度書きましたが、ジェスロ・タルには、ブラックサバスの一員としてデビューする前のトニー・アイオミが一時的なサポートというかたちで参加していたことがあります。
そして、そのアイオミのギターで、ジェスロ・タルは『ロックンロールサーカス』に出演していました。
このロックンロールサーカスというのは、ローリングストーンズが中心となり、フーやビートルズの面々が参加するという伝説のショー。こういうところに出演しているというのも、やはりジェスロ・タルが一世代前のバンドと感じさせるところなのです。
サバスの『血まみれの安息日』にはイエスのリック・ウェイクマンが参加していたという話も前に書きましたが、そんなふうに、1970年頃にはまだジャンル分けが不分明でした。ハードロック、ヘヴィメタル、プログレというふうにはっきり枝分かれしていないわけです。そんななかで、後のプログレにつながる要素をもっていたバンドがいくつか存在していました。ユーライア・ヒープがその代表で、ジェスロ・タルと同じレコード会社に所属していたプロコル・ハルムや、あるいは初期のディープ・パープルなんかもそこに含めていいでしょう。ジェスロ・タルも、そんなバンドの一つととらえられるんじゃないでしょうか。
プロコル・ハルムはサイケデリックの方向を深化させ、逆にディープ・パープルは、サイケデリックとかアートロックみたいな部分をそぎ落としてハードロックのひな形のようなバンドになっていくわけですが、ジェスロ・タルの場合は、ごった煮状態を70年代以降も続けていったように思えます。ただ、UKのメンバーだったエディ・ジョブソンとともにアルバムを制作したりもしていて、プログレ界の住人という認識はあったようです。そしてそれゆえに、プログレというジャンルが80年代に入ったぐらいで方向性を見失い、迷走していくというあのおなじみの流れにもまきこまれてしまった感はあります。解散こそしていませんが、新作はもう二十年にわたって発表しておらず、現在は活動休止状態。ジェスロ・タルは、プログレというジャンルがはっきりかたちをとる前から活動していたがゆえに、プログレが直面した挫折をより鮮明に映し出しているのかもしれません。
最後に余談ですが……忌野清志郎が生前に描いた絵本に「ジェスロ・タル助」なる人物が登場しているものがありました。テレビで紹介されていたもので、残念ながらその絵本を実際に見たことはないんですが(たしか、きわめて個人的なかたちで制作されたものだったのではないかと思います)。キヨシローが認めたものはロックの折り紙付きだというのが私の立場。したがって、ジャンルがなんであれ、ジェスロ・タルはやはり“本物”ということになるなのです。