ロック探偵のMY GENERATION

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Kula Shaker - Rational Man

2024-09-04 21:36:28 | 音楽批評


前回記事で、オアシスについて書きました。

オアシス再結成の余波は、まだ業界をざわつかせているようですが……ブリットポップ系のバンドの再結成ということで、ふと、Kula Shaker というバンドのことを思い出しました。
そんなわけで、今回のテーマはクーラ・シェイカーです。


細かく区分すると、クーラ・シェイカーはポスト―ブリットポップというふうに分類されることもあるようです。

前回書いたように、オアシスのBe Here Now がバブル崩壊の引き金になったということで、90年代後半にブリットポップは失速。そして、それ以降に台頭してきたアーティストをポスト―ブリットポップと呼んで区別する見方もあります。
このへんの線引きは難しいところですが……たとえばトラヴィスやキーンといったバンドがそこに含まれます。また、もっと前からやってはいたけれど、ブリットポップ全盛のころにはそこまでヒットせず、90年代後半ぐらいから頭角を現してきたバンド……ということで、レディオヘッドやヴァーヴを含めたりもするんだとか。
レディオヘッドということで考えると、内省的な側面というか、ちょっと深いことをいう、難解なロックという部分に焦点があたっているのかなとも思えます。そういうところが、ブリットポップには欠けていたんじゃないか、逆にブラーなんかは、そういうところがもともとあったから、ブリットポップが停滞していっても凋落せずに活動を続けることができたんじゃないか……そんなことも考えます。

で、このポスト―ブリットポップ期を代表するバンドの一つが、クーラ・シェイカーです。

非常に個性的なバンドであり、曲によっては、これはブリットポップに含まれるのかと思わされるものもあり、一歩間違えればキワモノ扱いされかねない部分もあるんですが……世の中には、このクーラ・シェイカーこそがセカンド・サマー・オブ・ラブの直系であると評する人もいます。
たしかに、そうかもしれません。そしてそうだとするならば、はるか60年代のサマー・オブ・ラブにまで連なる、ロックンロールの本流に位置しているともいえるのではないでしょうか。

それを象徴する一曲が、Hush。

Kula Shaker - Hush (Official UK video)

60年代に発表された曲のカバーです。
そのあたりに詳しい人ならご存じのとおり、あのディープ・パープルのデビュー曲でもあります。初期のディープ・パープルはオルガン主体のサイケデリックバンドで、この曲をカバーしてデビュー……というふうに、ロック史において重要な一曲なのです。



クーラ・シェイカーといえば、その特徴としてよく指摘されるのは、ジミヘンの影響を色濃く感じさせるギター、そして、なんといってもインド神話の影響を強く受けた世界観、そこからくる濃厚なサイケデリック臭……ということになるでしょう。

たとえば、Govindaという曲があります。

Kula Shaker - Govinda

ジョージ・ハリスンに同タイトルの曲があります。カバーではありませんが、同じインドの神様を基にしているということです。ハリスンのGovindaは、かの浅川マキがカバーしていたりもします。そういう目のつけどころが、クーラ・シェイカーはやはり凡百のバンドと一線を画しているのです。



厳密にいえば、クーラ・シェイカーが出てきたのはブリットポップの末期であり、デビューアルバム『K』は、ブリットポップの波に乗って大ヒットしたとも評されます。そして、セカンドアルバムはそれほどの成績をあげられず、99年にバンドは解散……そう考えると、失速したブリットポップの側のバンドなのではないかとも思えます。
キーボードのジェイ・ダーリントンがオアシスのサポートをやっていたりもして、そういうところからも、前期ブリットポップの側のバンドとみなされるかもしれません。

しかし、クーラ・シェイカーは2005年に再結成しています。

オアシスが再結成に15年かかったのとは対照的です。
そこは単純にかかった時間で測れるものでもないでしょうが……あるいは、クーラ・シェイカーの場合、ブリットポップ失速の影響を受けはしたけれど、それほどのダメージは受けていなかったんじゃないかと。
比較対象として、同じぐらいの時期にデビューして大ヒットし、同じような経緯で解散したエラスティカというバンドがあるんですが、そちらのほうは今にいたるまで再結成していません。両者を比べてみると、そこには何か差があるとも思えます。
その差がなにかと考えたら、それはやはり、クーラ・シェイカーというバンドに一過性のブームではない何かがあったということなんでしょう。60年代のサマー・オブ・ラブにまでさかのぼるロックンロールの歴史を踏まえているというか……このブログでは、ロックンロールのグレートスピリッツということをよくいってますが、まさにそこに接続しているということです。

再結成バンドは、ライブはやるけど新譜は出さないというようになることもよくありますが、クーラ・シェイカーは再結成以来新譜も発表してきました。
今年も、新作を発表しています。
そのなかの一曲、Rational Man の動画を。

Kula Shaker - Rational Man (Official Visualiser)

この曲が収録されているのは、アルバムではなく両A面のシングルで、タイトルはPEACE WHEEL。そのタイトルが示すとおり、平和をテーマにしています。まさに、ラブ&ピースということであり、それがロックンロールのグレートスピリッツということなのです。そういう普遍的なテーマを根底に据えているからこそ、クーラ・シェイカーは一時のブームで消え去ることなく活動し続けているんじゃないでしょうか。