オアシス再結成の話が、まだ巷を騒がせています。
先日は、アメリカのテレビ番組でギャラガー兄弟に扮したコメディアンによるコントが放送され、プチ炎上するなどということがありました。
それだけオアシスというバンドと、その中心であるギャラガー兄弟が注目されているということなんでしょう。
ところで……
ギャラガー兄弟といえば誰もがまずオアシスを思い浮かべるでしょうが、英国ロック史には、もう一組の“ギャラガー兄弟”が存在しています。
今回のテーマは、そちらのギャラガー兄弟。
ジョン・ギャラガーと、マーク・ギャラガー……この二人を中心に結成されたバンド、Ravenです。
Ravenは、いわゆるニューウェイヴ・オヴ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル(NWOBHM)のバンド。1974年にデビューし、今年で50周年を迎えるレジェンドです。アニヴァーサリーを記念して、来月には来日公演も予定されています。
オアシスとはまったくジャンルが違いますが、こちらのギャラガー兄弟も、ムーブメントの追い風を受けた成功と、その失速の苦難を味わったといえるでしょう。
NWOBHMは70年代後半から80年代にかけて一つの大きなブームになったものの、80年代が終わるぐらいには失速。後のブリットポップもそうだったように、ムーブメントを享受してきたアーティストたちは時代の変化への対応を迫られることになります。そして、やはりブリットポップの場合と同じように、多くのバンドは、いったん解散し、しばらくの禊のような期間を経て、ムーブメントが完全に過去の一ページになったところで再結成……というような道をたどりました。アイアン・メイデンやモーターヘッドといった超大物でさえ、ムーブメント失速の影響を完全に回避することはできず、90年代を迎える頃には迷走といえるような動きをみせているのです。
レイヴンの場合も、その例にもれません。
彼らの場合、スラッシュ/スピードメタルの元祖ともいわれる疾走感が持ち味であり、これは90年代ロックの主流とは非常に相性の悪い要素だったため、時代との軋轢も大きかったのではないかと推察されます。
しかし、そんななかでもレイヴンは、しぶとく活動を継続しました。
ある種の迷走状態は避けられませんでしたが……ブームの失速で強い逆風が吹くとしても、耐え続けていればいずれ逆風はやみます。レイヴンは、逆風の時代をくぐりぬけ、半世紀にわたって活動を続けるレジェンドとなったのです。
ここに私は、時代の荒波に流されない美学を見ます。
なんのジャンルであれ、それが衰微しようとしていくときに、時流に抗ってそのスタイルを貫き続ける姿勢には、尊いものがあります。
彼らの代表曲の一つに、Born to Be Wild があります。
いうまでもなく、オリジナルはステッペンウルフ。
映画『イージー・ライダー』でボブ・ディランによって起用されたというロック史における伝説の曲ですが、歌詞の中にHeavy Metal という言葉が出てきて、音楽史においてはじめてこの言葉が使われた例ともいわれています。まさに、ヘヴィメタルの元祖といえる曲でもあるのです。その名曲をレイヴンは、ジャーマンメタルの雄アクセプトからウド・ダークシュナイダーを迎えてカバーしました。
Born to Be Wild (feat. Udo Dirkschneider) (7" Single Cover Version)
それから時が流れ……2015年、同じ曲をグリム・リーパーのスティーヴ・グリメットとともにやっている動画です。
Raven & Steve Grimmett (Grim Reaper) "Born to be Wild" @ The Underworld, Camden, London 25th Oct 20
グリム・リーパーもNWOBHMのバンドで、グリメットもまた、逆風の時代にメタルを貫いた人物といえるでしょう。数十年にわたって同じリングに立ち続けた同志というような感覚があるのかもしれません。グリメットは2年前に死去していますが、その最晩年の姿であることを思うと、また感慨があります。
NWOBHMは、言葉でこそニューウェイヴといっていますが、実際にはパンク方面の文脈でいうニューウェイヴとは真逆で、伝統重視が基本姿勢といわれます。英国ヘヴィメタルの伝統に回帰しようと……それが根底にあるからこそ、元祖ヘヴィメタルというべきBorn to Be Wild を取り上げたわけでしょう。NWOBHMのバンドにはグラムロック系の印象的なカバー曲があったりしましたが、それも同趣旨と思われます。
そのヘヴィメタルの伝統を21世紀の今日まで継承し続けるバンドの一つが、レイヴンなのです。
オアシスと違って、こちらのギャラガー兄弟は仲が悪いということもなさそうなので、今後とも末永い活動を期待できるんじゃないでしょうか。