今回は、音楽記事です。
このジャンルでは、YUKIさんと、JUDY AND MARYのことを書きました。
そこからのつながりで、真心ブラザーズの「素晴らしきこの世界」という歌を紹介したいと思います。
真心ブラザーズ――
YUKIさんの夫であるYO-KINGこと倉持陽一さんがやっているグループですね。
まだ結婚する前に、この二人は、RCサクセションの「キモちE」をカバーしています。
正確にいうと、真心ブラザーズが「キモちE」をカバーする際に、YUKIさんがゲストボーカルとして参加。
クレジットには、YUKIさんの担当パートとしてGuest Vocal & Sexy とありますが、その表記のとおりに、歌の合間にSexy なせりふを入れたりしてます。
結婚にいたったのは、このときの縁もあったんでしょうか。
この曲はスライ&ザ・ファミリーストーンの(It's a) Family Affairをミックスしたアレンジになってるんですが、私としては、やはりRCの曲をカバーしたというところに注目します。
RCサクセションといえば、いうまでもなく、このブログにたびたび登場する忌野清志郎のバンド。
そのRCの曲をカバーしているというところからも、彼らの音楽的なセンスは信用できるというものでしょう。
そして、それだけではありません。
逆に、忌野清志郎のほうも真心ブラザーズのトリビュートアルバムに参加しているのです。
そこでキヨシローがカバーしたのが、「素晴らしきこの世界」。
キヨシローが日本のアーティストの曲をカバーするのは結構レアだと思いますが、真心ブラザーズはそのレアな例なのです。事故で入院していた清志郎がリハビリの一環としてレコーディングしたもので、すべての楽器をキヨシロー本人が演奏しているといいます。
では、その「素晴らしきこの世界」とはどんな歌なのか。
ここで、オリジナルのほうの曲の内容についても書いておきましょう。
曲はギターとハーモニカの伴奏からはじまり、序盤では穏やかな夕暮れの町の景色が歌われます。
夜道を一人で歩いていたら
どこから何やらカレーのにおい
僕もこれから帰るんだよ
湯気がたってる暖かいうち
素晴らしきこの世界
ここだけ聞いていれば、ルイ・アームストロング的な感じかとも思わされます。
しかし途中から、一転して激しい曲調に。
民族紛争 果てしない仕返し
正義のアメリカ ミサイルぶちこむ
飢えた子供の目つきは鋭く
偽善者と呼ばれて自殺する男たち
素晴らしきこの世界
ここで、「素晴らしきこの世界」とは、ある種の皮肉だということがあきらかになります。
自分のまわりには穏やかな景色が広がっているけれど、遠くに目を転じれば悲惨な現実が転がっている――そういう世界です。
笑った顔から怒った顔へ
感情の津波が波止場をおそうよ
ノードラッグ ノーアルコールで爆発しよう
ユメを見る前に 現実を見よう
素晴らしきこの世界
しかしこれは、決して現実に絶望する歌ではありません。
最後のほうでは、次のように歌われます。
僕の体にあふれるエネルギー
あらゆる困難もぶちこわし進むよ
悟り顔の若年寄にケリを入れて
バネをきかせて世界を変えるよ
素晴らしきこの世界
ユメを見る前に現実を見たからといって、それでユメを見なくなるわけじゃないんです。
現実のその向こう側に夢を見る。
どうせなにも変えられやしない――と、したり顔で何もせずにいる“若年寄”的態度を、真心ブラザーズは否定します。
このメッセージには、YUKIさんの「さよならバイスタンダー」と通ずるところがあるでしょう。あの忌野清志郎がこの曲をカバーしたというのもうなずけます。
冷笑的な態度は、ちっともかっこいいことじゃない。
たとえ絶望的な状態であっても、当事者であることから逃げない。世の中そんなものさとしたり顔で傍観者にまわるのではなく、世界を変える努力をしよう――この歌が伝えたいのは、そういうことなんだと思います。そしてそれは、いまの日本にこそもっとも必要とされているメッセージではないでしょうか。
紛争の当事者たちが希望を持てない状況だからこそ、私たちが傍観者に徹するべきではないんだと思いました。
何もできなくても想いを寄せて少しでも声を上げることが大事だと思いました。ありがとうございます。
まさにおっしゃるとおりで、冷笑、嘲笑、達観したようなそぶりからは何も生まれません。どんなかたちであれ、意思表示することは決して無意味なことじゃない。この歌が歌っているのは、そういうことだと思います。