雨上がりの夕闇に 学舎の裏庭はガランと空いていた 背の高い一本の緑樹が目に止まった 木はまるで古武士のように立って見えた 私はそのまま対座した 風は消え蒸し暑い
私は息を殺して間合いを詰めてみた 木はじっと静かだ 木は一向に動じない 世界には、私と木しかなかった 私は帯刀したつもりで 空想の刀の鯉口を切った 鞘を払い、太刀を水平に居合抜きした 一の太刀がヒュッと風を斬る さらに右足を踏み込んで 真っ向から二の太刀を切り下ろした 古武士は曇り空を背に モノ言わず見下ろしていた
私の稚気を、許してくれたろうか 私は木に黙礼して、建物に消えた
. . . 本文を読む