俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

鎮痛剤

2015-03-04 10:22:41 | Weblog
 鎮痛剤の中には胃などの臓器に炎症を起こさせるものがある。通常であれば胃痛などを感じるほどの炎症だ。ところがこれを感じない。それは鎮痛剤が痛みや不快感を感じにくくしているからだ。鎮痛剤は自ら作り出す痛みまで感じにくくする。
 これでは危険が迫った時に顔を覆ってしまう少女のようなものだ。見えなくなっても危険が無くなる訳ではないのだから、すべきことはその場を離れることだ。顔を覆ってしまえば逃げることができなくなって却って危険だ。
 感じないとは存在しないという意味ではない。怖いものから目を逸らしてもそれは存在し続ける。ガス漏れの匂いに耐えられる人はきっとガス中毒で死ぬだろう。サリンガスは見えないが猛毒だ。痛みを感じなくなることが症状の改善を意味するとは限らない。
 高齢者の中には頻尿に悩む人がいる。夜中に何度もトイレに行くから充分に眠れないし残尿感も不快だ。尿意だけを抑えればどうなるか?今度は失禁というもっと困ったことが起こる。不快感を抑えるだけでは問題は解決されない。
 ブラック企業で扱き使われている人は異常な精神状態になる。疲労感が蓄積されたり憂鬱にもなるだろう。それを抗鬱剤で抑えてしまえばこれが異常な状態であることが分からなくなり死ぬまで働き続ける。
 痛みに苦しむ人は痛覚を取り除きたいと思うだろう。しかし痛みは意味も無く存在する訳ではない。これ以上酷使すれば危険というシグナルだ。昔、甲子園球場では痛み止めを注射して連投する投手がいた。そんな人の一部は日常生活にも支障があるほど肩や肘を傷めた。「♪腕も折れよと投げ抜く闘志♪」(「巨人の星」より)が称賛されたのは過去の話であり、今では監督やコーチが制止しなければならない。
 実は人体には痛みを抑える物質が備わっている。アドレナリンなどの興奮物質だ。生命の危険などに晒されれば分泌されて一時的に痛みを忘れる。これは危険な状態から脱出するために分泌される。例えば戦場でうずくまってしまえば危険に身を晒し続けることになる。だから一時的に痛みを忘れさせる。火事場の馬鹿力もその一例だ。アドレナリンが分泌されると体の限界を告知するリミッターが働かなくなる。そのために無理をして骨折や捻挫などを起こし易い。これはあくまで危機を脱出するための非常手段だ。体内にある非常時用の劇薬だ。こんな物を常用すれば間違い無く健康を害する。たとえ脳内物質と同じ物であっても安全とは言えない。

平均回帰

2015-03-04 09:43:01 | Weblog
 ある科目の平均点が80点の生徒は毎回80点を取る訳ではない。70点から90点ぐらいの間でバラ付いてそれらを平均すれば80点になる。彼の個別の得点をグラフに表示すれば80点をピークにして大体正規分布するだろう。
 では彼が70点を取れば次の試験では何点を取るだろうか。50%以上の確率で80点前後に戻るだろう。それでは90点を取ったあとならどうなるだろうか。やはり50%以上の確率で80点ぐらいに戻るだろう。これを数学用語で平均回帰と言う。平均からズレてもすぐに平均へと回帰するということだ。決して直線的に上がったり下がったりする訳ではない。
 試験に対しては妙な信仰があるのでこんな例のほうが納得し易いかも知れない。余り正確でない体重計が12台あり、自分の体重を測ったところ10台目まででの平均値は60㎏だった。11台目では58㎏だった。12台目の体重計は何㎏と表示するだろうか。多分60㎏と予測できる。試験では学力の一部だけが測定される。これは不正確な体重計のようなものであり結果は毎回バラ付く。こんなものに一喜一憂しても仕方が無い。試験によって直近の学力を把握できると考えられ勝ちだが実はブレのほうが大きい。
 各自がベストを尽くす大学入試でさえ、再試験をすれば3割ほどが入れ替わると言われている。最上位のグループは安泰だが下位のグループの学力は上位不合格者と大差は無い。合否は少なからず運に左右される。普段の試験であればもっとバラ付く。
 このことを理解しない人が少なくない。70点を取った生徒を叱ったから80点に上がったと思い込むし90点を取って誉めたのに80点に下がったと思い込む。こんな事情があるから叱る効果は過大に評価され、誉める効果は過小に評価される。確率的に確実に起こることが人為的なものと誤解されている。これは祈祷をすれば雨が降るという迷信と同質だ。
 ブレと変異は区別されねばならない。ブレであれば放置しても構わないが変異には原因がある。最近勉強を怠っていれば70点を取ったのは勉強不足が原因だろうし、特に変わりが無ければ多分ブレだろう。一度の結果だけではなく経過に注目したほうが良かろう。移動平均などを使えばブレか学力低下かをある程度識別できる。
 実際には誉める効果のほうが叱る効果よりも大きいだろう。気分が良ければ意欲も増す。昔から、豚もおだてりゃ木に登るとまで言われている。その人の性格にもよるが、大半の人は誉められたほうが成長する。教育に携わる総ての人にこのことを知って欲しいと思う。