俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

孝と公

2015-03-28 10:12:53 | Weblog
 大塚家具のお家騒動は大塚久美子社長の勝利に終わった。この名前を見る度に視力の衰えた私は「大場久美子」と誤読をして、かつてのアイドルを懐かしく思った。
 この内紛を一部のマスコミは、久美子社長を「かぐや姫」と名付けて面白おかしく報じていたが、中国や韓国ではこんな騒動は起こらないだろう。「孝に背く」として子供の側が袋叩きに会うからだ。儒教道徳の社会では孝という原理が最優先される。孝を欠くことは人間として許されないこととされている。
 孝を重視することは良いことだ。しかし孝が「公」よりも優先されれば困ったことになる。中国や韓国で汚職が後を絶たないのは孝重視と無関係ではないようだ。一族の誰かが社会的に高い地位を得た場合、親族はその親に働き掛けて利益を得ようとする。血縁関係の濃厚な社会だから、親からの口利きを粗末には扱えず縁故採用や縁故取引が横行することになる。まるで昔の日本の村落のような縁故社会が今も続いているらしい。
 かつてアメリカ人のプロ野球選手が、子供の病気を理由にして帰ってしまったことがあった。多くの日本人は「日本を舐めている」と憤ったものだが、最近では個人の価値観の違いを認めて余り非難しなくなった。しかし儒教道徳は全く違う。親に何かがあれば何が何でも最優先せねばならない。それが社会としてのルールだ。
 モラルとしての孝は好ましいが孝がルールになれば生き辛くなりそうに思うが、ルールになることによって却って葛藤が少なくなるようだ。これは、アメリカに住む非暴力主義者なら護身のために銃を持つかどうか悩むところだが日本のように最初から禁じられていれば悩む必要が無いのと同じようなことだろう。
 大塚家具の場合、単なる親子喧嘩ではなく経営戦略を巡る争いだ。個人商店ではないのだから親子喧嘩などと問題を矮小化すべきではなかろう。久美子社長は孝よりも公、つまり経営者としての責任を優先した。たとえ親子であろうとも公的立場においては私情を挟むべきではなく、公よりも孝を優先すべきとは思えない。同じ二世経営者による騒動でも韓国のナッツ姫とは違って、日本のかぐや姫は、2割の株を握る大株主である父・勝久会長に圧勝したのだから、株主からの支持を得たと言えるだろう。孝は重要ではあるが公とのバランス感覚が必要だ。それを欠いたらそれこそ公私混同になってしまう。

分散

2015-03-28 09:33:35 | Weblog
 中央集権の計画経済であれば総力を集中することができる。だからその計画が正しければ大成功を収めることができる。しかし計画が誤っていれば大失敗に終わる。人は自らの誤りを認めたがらない。だから成功する可能性が少しでもあればリーダーは当初の計画に固執して傷を広げ勝ちだ。その間、批判する者は粛清される。ソ連や中国は懲りもせずに大失敗を繰り返した。
 航空機の乗客はその命運をパイロットに預ける。パイロットが狂っていれば悲惨な事故の犠牲者になる。これは24日に墜落したドイツのジャーマンウィングス社の航空機事故だけの話ではない。日本でも昭和57年に羽田空港沖で、後に「逆噴射」という言葉が流行語にもなった日航機事故があった。当時は機長の「心身症」が原因とされたが統合失調症だったようだ。
 昨年韓国で起こった客船セウォル号の遭難事故では、船長に命じられたとおり客室に残った高校生の多くが水死した。
 正しいリーダーに従えば安全だが狂ったリーダーに率いられた人は酷い目に会う。少数者による独裁は常にそんな危険を孕む。ソメイヨシノのように一斉に開花すれば一斉に散るという覚悟が必要だろう。均質化すれば効率的ではあるが失敗した時のダメージは大きい。
 かつてのソニーは次々に新商品を開発した。中にはベータマックスのような失敗例もあるが、ヒット商品が幾つかあればそれに頼って成長することができた。
 私は好立地の弁当店は傘を併売すべきだと考える。雨が降れば弁当の売上は激減する。これでは折角の好立地が無駄になる。そんな時に傘を売れば少しは稼げる。
 生物の進化に方向性は無い。あくまで環境に適応した種が栄える。今後、世界が温暖化するか寒冷化するかは誰にも分からない。温暖化すれば南方の生物の生活圏が広がり、寒冷化すれば北方の生物が広がる。気候変動と逆の適性を持っていた生物は滅ぶかも知れない。
 進化の法則は適者生存だ。適者とは環境に適応するという意味であり決して強者のことではない。進化論とは弱肉強食を正当化する理論ではない。逆に、進化論ほど多様性を重視する理論は無かろう。多様であればこそ、どんな変化があってもどれかが適応して繁栄するという理論だ。
 卓越した経済政策で大恐慌を克服したナチスにドイツ国民は総てを託した。全権委任を得たナチスは暴走して第三帝国を滅ぼした。一極集中は危険であり、権力は分散される必要がある。