俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

エンゲル係数

2016-04-27 09:38:49 | Weblog
 エンゲル係数が少し高まるとマスコミはすぐに「格差だ、貧困だ!」と騒ぎ立てる。なぜ彼らは一面的な捉え方しかできないのだろうか。まるで、小学校で教わった「南ほど暑い」を鵜呑みにして、軽装で南極に出掛けようとする人のような幼稚さだ。
 エンゲル係数が高まる主因は外食や中食が増えるからだ。そして外食や中食とは家事のアウトソーシングに他ならない。企業活動と同様に、家事のアウトソーシングの目的は経費削減だ。適切なアウトソーシングを行えば、たとえそのことによって経費が増えても全体としての経費は削減される。
 根本的な誤りは、人件費と見なすべき炊事を無償労働と評価していることだ。暇を持て余している人が炊事をするならその人件費など無視しても構わない。しかし現代人はそうではあるまい。寸暇を惜しんで働き個々の文化活動に勤しんでいる。炊事に時間を掛ければその分、労働時間や睡眠時間などが削られる。
 内食の金銭価値には「見なし人件費」を加算する必要がある。1時間の炊事であれば最低賃金は1,000円ほどであり、これを加算すれば少人数世帯の内食はかなり高価なものになる。
 私は現役時代、ごく簡単な朝食以外は総て外食だった。それは時間が勿体ないからだ。名目上での私の時間給は5,000ほどだったが、たとえ就業時間以外は自由であっても、自炊に費やす時間があれば、少しは自己啓発のために使うべきだろう。現役時代の時間はそれほど高価だった。それに時間当たりでの人件費で5,000円に相当する高コストな自炊をするよりも外食をしたほうがずっと良質で旨い物が食べられる。内食でファストフードと同質の食事をしようとすれば数倍・数十倍、高コストになる。外食や中食のほうが遥かに安上がりで手軽だ。もし自分で牛丼を作ろうとすれば大変な時間と手間が掛かる。そんなことに時間と労力とお金を費やすよりも牛丼屋に行ったほうがずっと得だ。「男の手料理」に代表されるように、内食とは贅沢な道楽でもある。
 先進国ではスペインのエンゲル係数が最も高く約34%だ。これは日本よりも10ポイントほど高い。このデータを見てスペイン人は貧しいと考える人はいない。スペインのエンゲル係数が高い主因は、外食費が17.5%と日本の4.5%よりも数倍高いからだ。スペイン人は炊事をアウトソーシングすることによって豊かな生活を楽しんでいる。決して食うや食わずの悲惨な生活をしている訳ではない。外食がハレの場ではなく日常生活の一部となった現代日本において、人件費を無視するエンゲル係数は最早、貧困度を測る尺度として役に立たない。