俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

野菜

2016-04-28 09:36:02 | Weblog
 私の乏しい経験に基づくなら、日本人は世界で最も多く野菜を摂取する民族だろう。これはあくまで私が海外旅行で得た印象だ。ビュッフェ(バイキング)形式の朝食で日本人はワンパターンだ。生野菜ばかりを食べるのは日本人女性で、男性は必ずライスかパンを食べる。西洋人は大半が肉類ばかり食べている。
 フィリピンやタイで数人の女性と付き合ったことがあるが、彼女らは驚くほど少食で妙にフライドチキンが好きだった。野菜嫌いの彼女らにとってはフライドチキンがヘルシー食に当たるのだろうか。
 タイのフードコートで食事をしていて「ベジタリアンか」と尋ねられたことがある。殆んどの日本人の食事は外国人にはベジタリアンであるかのように見える。
 国内で中華料理をよく食べるが、日本の中華料理は野菜を多く使う。例えば酢豚と中国の「古老肉(クールーロー)」は随分異なる。古老肉は揚げた豚肉に甘酢を絡めた料理であって野菜を殆んど使わない。日本の酢豚はシンガポール料理のsweet and sour porkに似ていると思う。
 ステーキ以外の洋食はすっかり和食化されている。外国の料理に野菜の付け合わせは殆んど無く、大量の刻みキャベツが付き物の日本風洋食とは大いに異なる。
 こんな日本に住んでいれば嫌でも野菜の摂取量が多くなる。そして奇妙なことに日本では野菜を好むことが道徳的に正しいこととして奨励されているようにさえ思える。子供の偏食は99%確実に野菜嫌いを意味する。周囲の人はムキになって野菜嫌いを改めさせようとする。そのために窃盗癖や暴力癖を改めさせる以上の情熱が注ぎ込まれるのは、これが単なる食文化や健康だけではなく宗教的活動であることの現れなのではないだろうか。
 肉も魚も果物も殆んどの食物が生のままで美味しく食べられるのに、野菜だけは煮炊きしたり調味料まみれにしなければ食べられない。野菜とは最も不味い食材であり、漫画の「美味しんぼ」34巻での海山雄山の指摘「人間は生野菜を、本質的に好きではない」は「美味しんぼ」全編でも最も食の本質を突いた名言だと思える。
 通常、快いものは有益で不快なものは有害だ。ところが進化のプロセスのどこかで狂いが生じたらしく人類は臭くて不味い野菜を食べなければ健康を維持できなくなってしまった。
 これは動物と植物による生存競争だろう。動物の生命は植物に依存している。肉食動物は草食動物を食べるが、草食動物は植物に依存する。だから植物が存在しなければ動物は生きられない。植物は動物に食べ尽くされないために臭く不味く有害な物へと進化したのではないだろうか。
 野菜は健康のために欠かせない食材だがそれが決して美味しくないという事実は認められるべきだろう。抗癌剤による味覚障害のせいで野菜の不味さを痛感するようになったために社会通念の歪みを痛感させられた。障害者の立場から見れば社会は嘘と偽りに満ちている。