天才技巧派絵師〈円山応挙〉を見終わるとすぐに松坂屋に移動し、
今度は技巧派とは正反対の素朴派の山下清展を観ました。
山下清(裸の大将)は何度もTV番組になっているので、
その作品や人柄はよく知られていると思います。
しかし、その原画作品を直接目にする機会は少なくて、
こんなに沢山の原画を観るのは僕自身初めてでしたので、
素直に楽しめました。
全体の作品を通して観て思った事は、技術はとっても素朴でも、
世の中から注目される前の放浪時代の作品が
本当に楽しんで描かれていたようで、
一番〈らしさ〉が感じられた創作時代だったと思いました。
遠近感とかあまり意識(表現力)が無くて、
平坦っぽい構図が多いのですが
逆にそれが個性を強調していたように感じられました。
ちぎられた紙の形が油絵のタッチの様で、
細長い紙のタッチはゴッホの様でもあり、
細かいドット状のタッチはスーラの様でもあり、
淡い色調のドット絵はモネの様でもありました…
だけどその作品は、紛れもなく山下清の個性そのものでした。
素朴派の難しいところは、絵は無意識で長く描き続けていると
自然に上手くなってしまって、
そうすると、もう素朴派とは呼べなくて
中途半端に上手い絵描きになってしまうことでしょう。
山下清もマスコミの注目を浴びて人気画家と呼ばれだしてからは、
かなり描写力は上がっていました…
それでも生まれ持った人柄と人間性が成せる技か、
〈素朴の味〉の一線は守り続けていた気はしました。
晩年の作品〈山下清「東海道五十三次」〉では、
描写力は初期の頃とは比べ物にならない程アップしていましたが、
それでも普通の画家ではあまり使わない真っ黒なペンで描かれた絵と、
それに付けられた短い文章が、
山下清の永遠の素朴さを失わせずにいた気がします。