風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

給料の遅配が当たり前の中国の会社(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第134話)

2012年10月26日 08時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 会社がまだ給料を支払ってくれないから、お金を返すのをもうちょっと待ってと中国人の友人から電話があった。もう一か月も遅れているのだという。お金がある時に返してくれたらそれでいいよ、と僕は答えておいた。
「中国の人にとって日系企業で働くメリットってなんですか? やっぱり給料ですかね」
 と日本人に時々尋ねられることがある。
 もちろん、地場の中小企業に比べれば待遇はましだけど、中国人にとって一番魅力ある就職先は公務員や大きな国営企業だ。給与もいいし、福利厚生もしっかりしている。権力を使って賄賂をとることもできる。中国の公務員に比べれば日系企業はかなわない。
「給料もありますけど、給料の遅配がないというのも大きな魅力なのですよ」
 と僕は答えるようにしてる。
 僕の答えを聞いてびっくりする人が多いのだけど、中国の会社では給料の遅配は当たり前だ。
 こちらの友人からはしょっちゅうそんな話を聞く。それで冒頭で紹介した友人のように五百元や千元といった当座の生活費を貸してあげたりする。もちろん、信頼している友人にしか貸さないけど。
 その点、日系企業は給与の支払いがしっかりしているから、社員は安心して生活することができる。
 なぜ、中国の会社でそんなに給料の遅配が頻発するのか、よくわからない。一般的に言って中国の企業は払いが悪い、というか、支払いはできるだけ払わずにすませたいというのが中国企業の態度だから、未回収金が増えて資金繰りが悪くなり、それで給料が払えなくなるのだろうか? それとも、給料なんて払いたくないから、できるだけ支給を遅らせたいと経営者が考えるのだろうか? 中国人の行き当たりばったりでその場凌ぎな性格を考えると、そもそも資金繰り計画が甘いというのもあるとは思うけど。
 中国の工事現場で出稼ぎの労働者が給料を払ってもらえずに社会問題になったことがあった。建築会社は、給料を払ってしまえば、お金を手にした労働者が郷里へ帰ってしまうかもしれないので、それを恐れて払わなかったのだそうだ。給料を手にできなければ、出稼ぎ労働者はお金を手にするまで仕事をやめるわけにはいかなくなる。こんなことがまかり通るのが中国だ。
 以前、病院勤務の医師から給料が遅配になって生活費に困っていると聞かされた時には絶句してしまった。ちなみに、日本と違い、中国の医者の給与は一般的にいって工場勤務のエンジニアと同じ水準だ。中国は人口がやたらめったら多い分、どこの病院も人であふれかえっている。その友人が勤めている病院も入院ベッドは常に埋まっている。儲かってしょうがないはずと思うのだけど、資金繰りがつかないらしい。病院の幹部が病院のお金を横領しているとしか思えない。不思議だ。



(2011年10月29日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第134話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

ツイッター