夏休みをとって、家内とふたりでイタリアへ出かけた。
まずはローマへ行き、コロシアムや古代の市場跡といった遺跡を見て回った。ローマの街の中にはごく当たり前のように帝国時代の遺跡がある。石造りだからそのまま残ってしまうわけだけど、過去と現在が何重にも交錯していてなんとも不思議な空間だった。
夕方、宿の近くのレストランへ入った。道にテーブルが出してあり、そこで食事する。涼しくて気持ちいい。
若いウェイターを呼びとめて、イタリアビールにパスタやピザを注文すると、イタリア流イケメンのウェイターは、
「日本人なの?」
と僕に訊く。そうだよと答えると、
「僕は日本が好きなんだ。僕の飼っている犬の名前は『ジャパン』ていうんだ」
と悪びれる様子もなく言う。僕はあっけにとられ、そうなんだとだけ返しておいた。そんなことを言ったら、喧嘩になってもおかしくないんだけどな。
このウェイターは道行く人に、
「フリー・フード」
と叫びながら客を呼び込んでいた。レストランが「ただ飯を喰わせる」といっても、それでその店に入ってみようかなという気になるわけがないじゃない。
あれだけ適当なことを言っても生きていけるんだと思うと、ちょっぴり羨ましくもなったのであった。
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(2016年8月14日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第369話として投稿しました。
『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/