いつから素直に好きだと思えなくなってしまったのだろう。
若かった頃は、好きなものは好きと思えたし、そう言えたはずだった。自分の気持ちに正直だった。人を好きになるのに、理由や理屈などいらなかった。
今は、好きだと感じた瞬間によけいなことばかり考えてしまう。たいていは、自分の身を守るための打算だったりする。くだらないことだ。いろいろ痛い目にも遭ってきたから、臆病になるのも、むりもないことかもしれないけど。
ただ、すくなくともこれだけのことは言える。
自分に正直だった頃のほうがずっと生きいきとしていた。
年齢を重ねるにつれ、いつの間にか、できない理由ばかりをならべたてて、自分に言い訳するようになった。
昔の恋のことを思い出す時、懐かしいのは彼女のことではなくて、もしかしたら心のままに人を好きになれた自分自身なのかもしれない。心の底から湧き上がる情熱に素直だった自分なのかもしれない。
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第39話として投稿しました。『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
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