上海人の奥さんの友人に夫がある中国企業のCEO(雇われ社長)をやっていてとても裕福な女性がいる。高級マンションを買っていい暮らしをしている。二人とも上海人だ。
もともと看護士だった彼女は、息子を出産した後、月給八万円で元の病院に勤め始めた。彼女の亭主は、「会社は順調だし、給料は十分にもらっている。生活には困らないから、専業主婦になって息子の面倒を見ればいいじゃないか」と言ったのだが、彼女は、「生活に困るとか困らないの問題ではなくて、仕事をすることが大事なのよ」と言ってフルタイムの看護士にこだわった。
中国では共働きが当たり前なので、子供の面倒はおばあちゃんやおじいちゃんが看るのが普通なのだが、彼女と彼女の夫は結構な高齢で元気いっぱいな赤子の面倒はとても看きれれない。そこでベビーシッターを雇うことにした。
このベビーシッターの費用は、彼女の給料と同じくらいかかるそうだ。看護士の給料はすべてベビーシッター代で消えることになる。それでも彼女は看護士の仕事を辞めない。
「私の亭主は仕事ができて稼ぎもいいし、優しいし、いい夫でいい父親でいてくれるから今の家庭は十分幸せだと思う。でも男であろうと女であろうとフルタイムで自分を養っていける仕事を持ってこそ一人前の大人となるのよ。だから、仕事を辞めるわけにはいかないの。それにリスクを考えておく必要もあるわ。亭主の稼ぎがいいということは、亭主は私が老いたら私を捨てて若い女の子と再婚するかもしれないわ。実際、そんな男は山ほどいるしね。亭主が私を捨て、私に仕事がなかったら、私と息子は生きていけなくなるわ。仕事があれば、少なくとも生活できるから安心でしょ。仕事がある限り、私は独立した人間でいられるの」
彼女は僕の奥さんにそう語ったそうだ。僕の奥さんは彼女の意見に激しく同意したそうだ。
上海の女は強い。
(2019年6月16日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第448話として投稿しました。
『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/