1990年代半ば、上海市内の中心部で高架道路を建設していたところ、ある一箇所だけ、どうしても高架の支柱を打ち込めないところがあった。工事は困難を極め、死者も出た。困った工事関係者は市政府の関連部門へ「この一箇所だけ、支柱を浅く打ち込んでおしまいにしていいか」と打診したが、市政府の関連部署は、当然、「そんなことをしては安全性が保たれない。支柱を規定通りの深さへ打ち込むように」と指導した。工事関係者は再び色々と試してみたのだが、やはり地盤が固くてどうしてもダメだった。
この硬さはただものではない、風水からみて、ここは龍の棲家に違いない、龍の棲家へ支柱を打ち込めるはずがない、ということになった。
早速、上海市内の有名な寺院の高僧が招かれた。
年老いた高僧は、その場所に祭壇をたて、数十日に渡って祈祷を行なった。つまりは、龍へ立ち退きをお願いしたのである。
祈祷が終わった後、再び支柱を打ち込んでみると、思いのほかすんなりと入った。なにごともなかったかのように無事に規定の深さまで打ち込み、めでたく工事が完了した。龍は高僧の願いを聞いてくださり、どこかへ去ってしまったようだ。かなりの高齢だった高僧は祈祷で力を使い果たしたのか、ほどなくして遷化せんげされた。
完成した高架道路は上海市内の交通の大動脈として上海の発展に大きく貢献し、上海にとってなくてはならない高架道路となっている。かつて龍の棲家だった場所に打ち込んだ高架道路の支柱には、今でも九つの龍をかたどった銀のレリーフを巻いてある。
(2019年9月8日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第458話として投稿しました。
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