Cバラックの塀の中をショッカンがうろついていた。顔を見ると目の淵が黒くなっている、シックなんだろう。昨日までぼくがいた8房はひっそりしている、人の出入りが多かったのだが。もしぼくがそこにいたら当然ショッカンは中に入って来てスタッフの無心をしただろう。3房はアフリカン以外は自由に中へ入られない雰囲気がある。房内を覗きながら行ったり来たりしているショッカン、まだ夜に必要なスタッフの手当てが出来ていないのだろう、目だけはギラ々させて何かを探していた。
キシトーは滅多に外へは出ない。フィリップス以外、他のアフリカンと親しく話しをしている場面を見た記憶はない。ぼくが知っているキシトーはスタッフに溺れていた。同じホテルの隣に住んでいた事が一度だけあった。ぼくは奴の部屋で取引きをし5gを買った。部屋に戻って小パケに分けているとドアーをノックする音、スタッフを隠してドアーを開けると奴が立っていた。右手を出してお前に粉を売ってしまって今晩の粉がない少しくれと言う、ふざけるな、欲しければお前に渡した金で買って来いと言ってドアーを閉めた。どのくらい時間が経ったのか分からないがドアーの外に誰か立っているような感じがしてしょうがない。小さくドアーを開けて見ると何と奴は前と同じ姿勢で立っていた。ちょっと変った奴だ。