106ページに、「南京占領」と言うタイトルで、占領時の状況が説明されています。
「昭和12年の11月13日、朝になって場内の中国軍はほとんど逃げ去り、」「その後へ日本軍が入城し、残敵の掃討に当った。」
氏はここで、戦車隊長・藤田実彦少佐の著作『戦車戦記』の一節を紹介しています。
「歩兵隊の主力が、中華門から南京城に続々入場した時、」「付近の城壁上には、敵兵は一兵も姿がなく、」「雪崩撃って進撃する歩兵たちは、必ず城壁に登り、バンザイを叫んでいた。」
「どの部隊にも、白い木綿の布で包んだ戦友の遺骨を、首から胸にかけている兵を見た。」「彼らは戦友の遺骨を、頭上高く掲げ、バンザイを叫んだ。」「その目には涙が光り、震える声で、バンザイを叫んでいる兵もいた。」
氏はもう一人、南京攻略戦に参加した佐々木至一少将の著作、『南京攻略記』の一部も紹介しています。
「守将が逃げた後に残された支那兵ほど、惨めな存在はないのである。」「彼らにはもはや退路がなかったので、死に物狂いで抵抗した。」
「敗残兵といえども、なお伏して狙撃を続ける者がいた。」「抵抗する者、従順の態度を失する者は、容赦なく殺戮した。」「終日各所に、銃声が聞こえた。」
「骸骨となった家屋の焼け跡で、各所で盛んに火勢が上がっている。」「住民は、一人も顔を見せない。」「痩せ犬だけが、無表情に歩いたり寝そべったりしているのである。」
そして次の叙述に、私は驚きました。
「戦後の国民はもちろん知らなかったが、南京占領当時の日本軍の行動は、」「南京虐殺事件として、早くも世界に伝えられ、」「伝統ある名誉を大いに傷つけた。」
「事件の全容については不明の点が多いが、市民の被害は、」「死者一万数千人以上という者もあり、」「家屋の破壊、放火、略奪、暴行などが行われた。」「中国側が戦後発表した資料によると、数十万もの市民が殺されたことになっているが、」「これは正規戦闘よる戦死や、掃討戦による便衣隊の死亡も加えられているようである。」
「日清・日露戦争当時に比較して、道義心が低下していたことは事実であった。」
「戦争中は国内での報道が禁止され、国民は戦後になって初めてこれを知った訳であるが、」「戦争に伴って起きた、呪うべき非情な事実は事実として、」「深く反省しなければならない。」
3年前の 1月に、田中正明氏の著書『南京事件の総括』を私は読みました。松井石根(まつい いわね)陸軍大将は、南京占領時のトップにいたため事件の責任を問われ、東京裁判 ( 極東国際軍事裁判 )で死刑判決を受け、処刑されました。
一度ブログで取り上げましたが、今井氏の説明を読み、再度言及することにしました。著者の田中氏は松井石根大将の秘書を務め、大将と蒋介石の会談に同席した経歴の持ち主です。
蒋介石の中国軍を撃滅すべしという、強硬論が大勢を占める中で、むしろ松井大将は、中国との連携が大事と考える少数派の軍人でした。蒋介石との連携による「アジア保全の構想」を持つ大将は、蒋介石との親交もありました。
昭和3年に張作霖爆殺事件が勃発した時、首謀者である関東軍河本大佐の厳罰を要求しました。このため若手の将校の間では、頑固者扱され、敬遠する声も多かったと言われています。重複しますが、田中氏の著書から、引用します。
「昭和13年 (1938年) 1月16日、近衛文麿首相の、」「蒋介石を相手とせず宣言 ( 近衛声明 )で、すべてが終わった。」「松井は、軍中央から中国寄りと見られ、考え方の相違から更迭され、」「2月21日に上海を離れて帰国し、予備役となった。」
「3月に帰国し、静岡県熱海市伊豆山に滞在中に、」「日中両兵士の犠牲は、アジアにおける欧米諸国の植民地が、」「いずれ独立するための犠牲であったと考え、松井はその供養について思いを巡らせた。」
「昭和15年(1940年)2月、日中戦争における日中双方の犠牲者を弔うため、」「熱海市伊豆山に興亜観音を建立し、自らは麓に庵を建て、そこに住み込み、」「毎朝観音教を、あげていた。」
松井大将を知る田中氏は、東京裁判で冤罪で処刑された大将の名誉を回復すると、心に誓います。GHQのいる間は本が出せないため我慢し、昭和62年に、氏が76才の時単行本で出版しています。私が読んだのは、死後の平成19年に、文庫本として再出版されたものでした。
氏の著書『南京事件の総括』が出版されたのは、昭和62年と平成19年ですから、今井氏の著書が書かれた時は、まだ世に出ていません。氏が引用しているのは、下記二冊ですが、まずもって二冊の引用部分には、大虐殺のことが書かれていませんので、もし田中氏の著作を読んでいれば、今井氏の説明は変わっていたと思います。
藤田実彦少佐の著作『戦車戦記』 佐々木至一少将の著作、『南京攻略記』
田中氏の願いと、松井大将の冤罪を晴らすため、次回はもう一度「南京事件」の再確認をしたいと思います。皆様の「ねこ庭」へのご訪問をお待ちしています。