田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

直人!! タスケテ(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-01 00:05:29 | Weblog
2

「オジイチヤンの遺体はそのままでいい。
野ざらし覚悟の人生だったから。
畳の上というか、家の庭で死ねてしあわせよ」
キリコは凄絶な顔に涙を浮かべていた。
庭の苔の上に倒れたサル彦を凝視していた。
涙がキリコのほほを伝って流れおちた。
とめどもなく涙をこぼした。 

急転直下のかわりようだ。
サル彦は鬼神と刺し違えた。
互角の戦いだった。
だが、敵は不死の者。
瀕死の重傷を負ったはずなのに。
現われたときのように。
よろけながらも。
黒い霧とともに森の中に消えてしまった。
……キリコには余裕はなかった。
いまこの瞬間にも鬼神一族の報復があるかもしれない。
黒い霧はまだ森の中に漂っている。
あの霧から鬼神がわいてでる。
キリコを強引につれさろうと。
何処にあるともわからない。
鬼のにつれさろうと。
現われそうだ。
危機は去ったわけではない。
あの霧のどこか見えないところから。
野獣のように危険なものが。
こちらをうかがっている。
それは子どものころから。
感じていた恐怖だ。
牙をむき出しにして。
鉤爪をひからせて。
獰猛なものが。
おそってくる。
鬼族が出現するる前に生じる黒い霧が。
まだ晴れない。
醜悪な顔の鬼族の群れが出現する。
重苦しく執拗な恐怖。
もはやtraumaとなっている恐怖。
「もう――サル彦はいない。わたし怖い」
命がけで、わたしを守ってきてくれた。
サル彦はもういない。
キリコはすがるように隼人につぶやく。
ここを離れなければ。
危険だ。

サル彦の死をゆっくりと悲しむことはできなかった。
涙をぬぐった。

直人の携帯が鳴っている。
「うらにヘリがある。
日光の遊覧飛行に使っていたの。
こうゆう事態になることをジイチャンは予知していた。
鬼神の仲間は大勢いるの。
どこにいってもいるの。
わたしたち東京に脱出する準備はできていたの」
 
キリコは着物からジーンズ姿にかわっている。
操縦席にはいろうとする。

「ぼくがやる。ナビゲーターをたのむ」
「さようならサル彦ジイチャン。さようなら日光」
キリコの目に涙が光っていた。
生まれ育った故郷日光をあとにするのだ……。
遊覧飛行用の小型ヘリが日光の空を飛びたった。


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