田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

鹿沼の怪談(4)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-08 08:29:34 | Weblog
4
 
ここを離れられない。
そして、このまま老いていくことを甘受している男。
翔太郎を怪異が襲っていた。
智子はすつかり意気阻喪。
がくっときている。
自信をなくしてしまった。

「だってわたし万引きとまちがえられたのよ」
 
そんなことをしても無駄だとはいえなかった。
見つかったレシートを見せてくる。
といって智子は途中からひきかえした。
智子にはわからない。
レシートを見せに行くなどということは。
まったく見当違いの行為だ。
やつらの侵攻がまたはじまるのだ。
侵略のはじまる予告だ。
また悪意の津波がうちよせてくる。
翔太郎に脅しをかけてきたのだ。
 
20数年前。
いまはFデパートとなっている。
あのころは、N自動車工場の応接間。
「倉田。なんてことをいう!!」
「古い文学仲間のおまえだから、いまの暴言ゆるしてやる。さつさと帰ってくれ」
倉田は社長のいすにゆったりと座っている。
風格が出ている。
後ろにはボディガードがひかえている。
翔太郎をねめつけるように立っている。
「おれと会うのに、用心棒がひつようなのか」
「ストをやっている工員に外部から面会に来た男がきがいる。
……というので通してみたらおまえさんだった。
それだけのことだ。
べつに、おまえにあうためにこの男たちを呼んだのではない」
ぜんぜん話し合いが成立しなかった。

倉田はかわってしまった。
「倉田、きみは、社会党の県支部長。
そして県会議員なのだよ。
ストをやっているみんなは、
味方の県議の先生が社長になって乗りこんできた。
そういって涙を流してよろこんでいた。
これでわれわれの要求が通る。
そういってよろこんでいた。
それがなんだ。
一方的に役員全員を解雇。
おだやかでないな」
生徒の父親がスト反対派からリンチに会った。
昨夜も帰ってこない。
先生タスケテ。
と教え子からの電話でかけつけて、
倉田と再会したのだった。
倉田はまったく高校時代の純朴な倉田ではなくなっていた。
「塾をはじめたときいていたが、おまえはぜんぜん成長しないな」
せせら笑っている。
話し合いが成立しない。

あの時、無理にでも生徒の父親をつれかえればよかった。
何があったのかわからないままま。
集団自殺。
三名のスト実行派の役員が死んだ。
その恨みだ。
その怨霊の祟りだ。
Fデパートはそのあとに建てられている。
あそこで投身自殺がおきるのは。
かれらの怨霊のたたりだ。

そうした過去の経緯は智子にははなしていない。
東京で生まれ育った妻には残酷すぎる。
なにもはなせない。

こんどはなにが起きようとしているのか。
翔太郎にはこの段階ではなにも分かっていなかった。
智子を慰めるのに懸命だった。
翔太郎には怪異のおきる予感があった。
ただそれだけが感知できた。




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