毎年、三月の後半になると、田んぼに堆肥を運ぶ橇引きが始まっていました。橇には一畳分の広さがある木の箱が括(くく)り付けられ、その上に堆肥が積まれます。三月の後半になると雪がザラメ上になり、夜間の冷え込みでガンガンに硬くなります。その硬い状態は午前10時ごろまで続きます。これは橇引きには最適で、橇を引くために足を踏ん張っても足が雪の中に沈みこむことはありません。橇の下の雪も変形しませんので、摩擦抵抗が極端に小さくなり、快調そのものです。次第に気温が上がると、橇を引くのが重くなり足元もゆるくなってきます。
田んぼには、橇で堆肥を運ぶ前に1.5m四方ぐらいに雪を掘って穴を開けておきます。穴に到着すると、木の棒を橇の下に差し込んで橇ごとひっくり返します。穴の大きさが橇の長さよりも短いのがミソです。橇よりも大きいと、橇をひっくり返した時に橇まで穴に落ちてしまいます。
この写真は昭和45年ごろのものです。
堆肥は、三月の橇引きまで、一年かけて蓄積されます。昔はどこの家でも牛を飼っていましたので、牛舎から出る糞尿が浸みこんだ敷き藁を積み上げておきます。堆肥が積みあがったものを「こえづか」と呼んでいました。「肥え塚」という意味だと思います、堆肥が積み上がった塚ということでしょう。
この橇引きは、思わぬ体力強化の効果がありました。全力で橇を引きますので、足腰の特別な筋トレになりました。この筋力は、春の記録会まで続いて、自分でも信じられない記録を作ってくれました。ただし、私の場合は常盤中学校という範囲内でのお話です。尾花沢市全体ではもう通用しません。