iモードを成功させた夏野剛さんが、標題の解説を日経ビジネスに投稿しており、興味ある記事なので、引用した。
新しい商品やサービスの企画は、何か根拠がないと企業では組織として承認するなく、このジレンマをどう突破するかというと、
それが、開発者、企画者の信念だという。
「これ」が実現されればこんなメリットがある、という確信。この確信は、「これ」を懐疑的に思っている人にとっては開発者の主観にしか聞こえません。そこで、理屈をつけるためにマーケティング理論にのっとった説明を加える。手法には実に様々なものがあり、人の言うことを容易に信じない人を説得するにはうってつけです。しかも、どんなデータを使うかによって、正反対の結論を導くことすらできます。ですから信念のある人ほどマーケティングを学んでおいてください。自分が主観で正しいと思ったことに、)客観性を付けられます。
そこまでしてでも企画を通そうとする執念、これが信念です。「自分の企画は絶対に会社のためになる」「社会のためになる」という信念があってこそ理論武装できるのです。
以下、記事の要約:::::::::::::::::::::::::::::::::
「顧客の声を聞け」
「データに基づいて仕様を決めろ」
「マーケティングリサーチの結果がすべて」
「βテストの反応を企画に生かせ」
などは商品開発やサービス開発の基本だと言われます。
でも僕はコンサルティング会社などによくいる「マーケティングの専門家」という人に会って、実務として商品やサービスの企画の話をしたときに、感銘を受けたことがあまりありません。
マーケティングは当たり前か
そもそもマーケティングって何でしょうか?
狭義には商品またはサービスを購入するポテンシャルのある顧客候補に対してブランディングやマーケティングコミュニケーションなどを通じて購買行動やサービス利用に働きかける行為と規定されています。
なるほど、どこの企業でもやっていることだな、と思われる方が多いのではないでしょうか。
確かに、こう定義される仕事は、当然やらなければいけないことのように思えます。けれども、この仕事をやっていればすべての企業が失敗しない、というわけではなさそうです。特にIT(情報技術)の世界においては、とりあえずやってみて顧客の反応を見ながらやり方を変えていくと手法が普通に取られています。
ものづくりの世界においても、スティーブ・ジョブズ氏やイーロン・マスク氏がマーケティング理論を忠実に守っているようには見えませんし(結果そう分析できたとしても)、「自分の作りたいものを作っている」と宣言しているイノベーターはたくさんいます。
ユーザーは手にしていないものを評価できない
そう、もうお気づきになったかもしれませんが、ITやイノベーションの世界では、伝統的なマーケティング手法が通じにくいのです。もちろん市場調査は必須ですし、販促戦略も重要です。ですが、ユーザーの声を聞きすぎるとイノベーションは起こしにくいのです。
ユーザーは手にしていないものを評価できません。GPS(全地球測位システム)も、おサイフケータイも、生体認証も、スマホの全画面タッチスクリーンですら、商品投入前に実施した市場調査では支持率が低かったのです。その理由は、その商品やサービスが出る前にそれがどんな効用をもたらすのかを想像することは難しく、また想像できる範囲も限られるからです。
一方で懸念はたくさん浮かびます。GPSで位置が特定されると危ないんじゃないか、おサイフまでケータイと一体化したら落としたときが大変だ、生体情報を盗まれたらどうしよう、タッチスクリーンだとネイルが邪魔で文字が打ちにくいんじゃないか……
冒頭で定義したマーケティングは、既に存在しているものやサービスの評価には当てはまるかもしれませんが、まったく新しいものには対応できないケースが多いのかもしれません。
マーケティングは信念を実現するための道具
しかし企業では、何か根拠がないと、新しい商品やサービスの企画を組織として承認することはありません。そのジレンマをどう突破したらいいのでしょうか。
それは、開発者、企画者の信念です。
「これ」が実現されればこんなメリットがある、という確信。この確信は、「これ」を懐疑的に思っている人にとっては開発者の主観にしか聞こえません。そこで、理屈をつけるためにマーケティング理論にのっとった説明を加える。手法には実に様々なものがあり、人の言うことを容易に信じない人を説得するにはうってつけです。しかも、どんなデータを使うかによって、正反対の結論を導くことすらできます。ですから信念のある人ほどマーケティングを学んでおいてください。自分が主観で正しいと思ったことに、(少なくとも外形的には)客観性を付けられます。
そこまでしてでも企画を通そうとする執念、これが信念です。「自分の企画は絶対に会社のためになる」「社会のためになる」という信念があってこそ理論武装できるのです。
ユーザーのあら探しに耐える信念
ただし、企画を通すのは単なる出発点です。商品やサービスの企画が了承されてから市場に投入されるまでには時間がかかります。いったん開発にGOサインが出されたなら、そこからは、開発が成功する確率をあらゆる手段を駆使して上げていくことが重要になります。
ここでも信念が必要になります。ユーザーは、新しいサービスのあら探しが得意です。そして「あら」のない新商品はありません。新商品はあらよりも大きなメリットを持っていなければなりません。そのメリットを信じ切れるかどうかは開発者の信念によります。
また、ユーザーは使ったこともないものに値段は付けられません。「適正な」価格ポイントを見つけ出すためにも信念が必要です。市場調査の結果に左右されて開発が中止になったり、価格が不当に安く設定されて利益が出なかったり、とはよく聞く話ですね。こうしたケースは、信念がないがゆえにそうなるケースが少なからずあります。
イノベーティブな商品やサービスが生まれないのは、開発の全工程に責任を持つ、信念を持ったリーダーが存在していないためだと僕は考えています。