日経によると『東レ、100%植物由来の合成繊維 エシカル消費が後押し』。東レだけでなく、帝人や東洋紡も、食植物由来の繊維を開発していると言うから、まだまだ、日本は頑張れるし、脱・化石燃料に大いに貢献出来る。
東レは衣料などに広く使われるポリエステル繊維について、世界初となる100%植物由来の製品を2020年代前半にも量産する。石油原料から切り替え、脱炭素化につなげる。環境に配慮した商品やサービスを求める「エシカル消費」が広がりつつあり、アパレルメーカーから新たな素材の需要が増えるとみている。環境技術が企業の成長を一段と左右する。
ポリエステル繊維は、人工的に化学物質を結びつけてつくる「合成繊維」の一種だ。衣服や毛布、カーテンなどに幅広く使われ、世界の化学繊維生産量の8割を占める。大半が石油からできており、植物に切り替われば脱炭素の効果は大きい。
東レは完全植物由来のポリエステル繊維の試作に成功した。バイオ燃料の米スタートアップ企業、バイレント(ウィスコンシン州)との共同開発だ。スポーツウエアや婦人服、自動車の内装材などの用途を見込む。
一般的なポリエステル繊維はテレフタル酸とエチレングリコールからつくられ、使う割合は7対3となる。どちらも、特定の機能を果たすために、炭素や水素などの元素が決まった構造に組み合わされている。
どちらの原料も、これまでは石油からつくられていた。これを植物由来にする流れが生まれている。エチレングリコールの方については、すでにサトウキビが利用されている。インドのインディアグリコールズなどが供給し、東レや台湾の遠東新世紀など複数の繊維大手が一部植物由来の繊維として販売している。
もうひとつのテレフタル酸は、大量生産される一方で植物の利用が進んでこなかった。今回、植物の応用ノウハウを持つバイレントの技術を活用した。サトウキビやトウモロコシのうち、食用に回らない部分を使うもよう。
脱炭素の効果を生む理由は2つある。石油を使わないことと、原料になる植物が光合成で成長する際に二酸化炭素(CO2)を吸収していることだ。
耐久性や加工のしやすさは石油でできた製品と同程度という。発売当初の価格は石油のみを使った繊維よりも割高になるが、両社で量産技術も開発することでコストを下げていく方針だ。
開発に踏み出す背景には消費者や顧客企業の意識の変化がある。欧米の若者を中心にエシカル消費が拡大し、割高でも受け入れられ始めた。例えば英誌エシカル・コンシューマーによると、英国での「エシカル衣料」の18年の消費額は前年比16%増の5000万ポンド(約71億円)。1999年の12.5倍だ。
環境対応の取り組みなどで企業を選別する「ESG投資」によるマネーの拡大も、アパレル企業の背中を押している。世界持続的投資連合(GSIA)の調べでは、ESGに基づく投資マネーは世界で約31兆ドル(2018年時点)あり、2年で3割以上膨らんだ。
スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)は30年までに、すべての素材をリサイクル品か、環境や社会に配慮した持続可能な調達に切り替えると発表した。繊維商社の社長は「欧米は環境配慮型の素材でないと商売にならなくなりつつある」と語る。
アパレルも動き出した。ファーストリテイリングは一部植物由来の繊維を採用済みだ。1月、国連が推進する「ファッション業界気候行動憲章」に署名した。同憲章は30年までにサプライチェーンも含めた温暖化ガス排出量の合計3割を削減することなどを目指している。英バーバリーなど90社以上が署名している。
消費者や小売りの間で環境配慮型商品のニーズが高まっている。ユニクロも一部植物由来の繊維を採用(東京都内の店舗)
東レは消費者や小売りの変化を商機とみる。完全に植物でできた繊維を投入するなどして、環境配慮型製品の供給量を30年度に、13年度の4倍にする計画だ。
他の国内大手も植物からできたポリエステル繊維に期待する。東洋紡は19年、同社としては初の植物由来原料を一部使った「エコールクラブバイオ」を開発した。帝人は植物由来の原料を4割使った「ソロテックス」の販売が好調だ。15年ごろから毎年2~3割のペースで売上高が伸びているという。19年度の売上高は前年度比25%増の約100億円を見込む。
野村証券の岡崎茂樹氏は環境配慮型の繊維について「(開発費などが)短期的なコスト上昇要因だが、企業が5~10年後に生き残るために欠かせない取り組み」と指摘する。市場の変化に研究開発のスピードをどう合わせるか。素材メーカーの重要な課題になる。