東洋経済が、中小企業ほどテレワークが浸透しない根本理由まずは「完璧を求めない」ことが導入の第一歩と解説していた。導入が進まない大きな原因は、「中小企業で、テレワーク化が進まない大きな要因に挙げられるのが、大企業と違って役割が広いこともあり、社内を取りまとめて引っ張っていく人材がいないことです。また、導入にかかる費用の問題も大きいでしょう」と説く。
一方で、導入メリットも大きい。①テレワークは今までかかっていたコストの圧縮にも直結する。通勤日数を減らせるので通勤交通費やオフィスの光熱費を圧縮でき、さらにはオフィスの規模を縮小することで、家賃を大きく下げることも可能。
②これまでは子育てや介護、パートナーの転勤などで離職せざるを得なかった人材も、テレワークが普及すれば在職できるようになるし、また社内にテレワークが浸透し、優秀な人材が残れば、入社志望者の増加にもつながるだろう。それだけでなく、テレワークで仕事のやり方が変わり、社員の能力も向上する可能性もあるから企業の生産性向上にもつながる。
コロナショックを機に急速に浸透したテレワークだが、大企業に比べると中小企業での導入率はまだ低いという。しかし、緊急事態宣言解除後も、テレワークはもはやスタンダードになると考えてよいだろう。今や、生産性向上や人材確保の面でもテレワーク環境の整備は「一部の進んだ企業だけ」というわけにはいかなくなっている。中小企業のテレワーク導入を阻む障壁と中小企業こそテレワークを実施すべき理由について考察する。
テレワーク化の“ハードル”は意外と高くない
東京都の調査(※1)によると、3月時点で24.0%だった都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は、4月には62.7%にまで上がった。実に2.6倍以上の上昇率である。
ただし、実際にテレワークを行った社員は半数以下(49.1%)にとどまっており、さらに目立つのが企業規模による格差だ。従業員が300人以上いる企業では約8割がテレワーク導入済みであったのに対し、30人~99人の企業では約5割にとどまる。中小企業の多くが、コロナ禍による売上減などに伴う資金繰り対策に追われ、従業員対策については後回しになっている状況といえるだろう。
テレワークの普及・啓発に努める一般社団法人日本テレワーク協会 主席研究員・冨吉直美氏はこう話す。
「中小企業で、テレワーク化が進まない大きな要因に挙げられるのが、大企業と違って役割が広いこともあり、社内を取りまとめて引っ張っていく人材がいないことです。また、導入にかかる費用の問題も大きいでしょう」
とりわけテレワークの導入に際して聞かれるのが「IT機器やシステム導入のための知識がない」「ルールをどうつくればいいのかわからない」「コストがかかる」といった課題だ。東京商工会議所が2020年3月下旬に実施した調査(※2)によると、現在テレワークを実施していない企業において、課題となっているのは、「テレワーク可能な業務がない」を除くと、上位から、「社内体制の整備」、「パソコン等ハードの整備」、「セキュリティの確保」が課題となっているという回答結果となっている。
いちばんのハードルとなっている「社内体制」に関して、「まずは完璧を求めずに始めることが重要」と冨吉氏は指摘する。
就業規則などは最低限の変更をする程度でテレワークを実施することも可能だ。導入に成功した企業に話を聞くと、まずは実際にテレワークを実施してみて、やりながら必要なルールを段階的に整備していったというケースもある。
中小企業ほどテレワークのメリットは大きい
まずはクイックに実施することの効用は小さくない。注目したいのが、テレワークの導入が、中小企業が慢性的に抱える課題を解決し得ることだ。
環境の整備にコストがかかるというイメージもあるかもしれないが、一方で、テレワークは今までかかっていた不要なコストの圧縮にも直結する。通勤日数が減れば、それに伴い通勤交通費やオフィスの光熱費を圧縮できる。さらにはオフィスの規模を縮小することで、家賃を大きく下げることも可能だろう。
また、多くの中小企業が抱える「優秀な人材の流出防止・採用」という課題。これまでは子育てや介護、パートナーの転勤などで離職せざるを得なかった人材も、テレワークが普及すれば在職できるようになるかもしれない。また社内にテレワークが浸透し、優秀な人材が残れば、入社志望者の増加にもつながるだろう。
生産性の向上も見込める。小さい企業ほど一人ひとりの社員の職域が広いものだが、テレワークで電話対応や来客対応、さまざまな雑務から解放されれば、その人本来の職務により集中できるだろう。またテレワーク環境が整備されることで、これまで関わることの難しかった海外や地方の企業・人材・案件とも関われるようになる。それにより、これまでになかったシナジーやイノベーションが生まれるかもしれない。
「テレワークであれば、遠隔地や兼業で働く外部人材なども有効に活用していけます。また集中力や時間の使い方が向上することで、個人レベルでの生産性も大幅に高められます。だから中小企業にとっては、課題をクリアするチャンスともいえるんです」(冨吉氏)
ハード面での課題も今や低コストで解決できる
ルールに続いて障壁となっている「パソコン等ハードの整備」については、テクノロジーの進化により、敷居はどんどん下がっている。最近は安価で高性能なパソコンやWi-Fi機器が多く出ており、ビデオ会議用のツールや、遠隔作業に欠かせないクラウドサービスも低コストで導入できる。一方で、「セキュリティの確保」といった観点で、選ぶのが難しくなっている面もあるだろう。
選択肢が多くあるだけに、何からどう進めればいいかわからない、という初歩的なところで立ち止まっている中小企業も少なくない。そうした企業のために、今テレワークの導入のサポートを行うサービスも登場している。例えば、一般社団法人テレワーク協会の協力のもと、日本マイクロソフトとパソコンメーカー各社が共同で取り組んでいる「中小企業のテレワーク応援プロジェクト」が、その代表だ。
当プロジェクトでは、テレワークに最適なパソコンやビデオ会議ツールの紹介、テレワーク導入に必要な情報を集約した「中小企業のためのテレワークガイド」の提供といった取り組みを実施。6月18日19日には、テレワークの仕組みや助成金制度、導入事例などを紹介する無料オンラインセミナー「今すぐ始められるテレワーク推進セミナー」も開催する。
「このタイミングをきっかけに、テレワークをはじめとした新しい働き方に対応していけるかどうかは、トップ次第。今後、より二極化が進むと思いますが、この波に乗れた企業に優秀な人材が来る可能性が高まるでしょう」(冨吉氏)
長年オフィス勤務のみでやってきた企業が、急にテレワーク中心に切り替えるのは、当然難しい部分があるだろう。でも、今こそひと踏ん張りして導入を進めることで、長年抱えてきた課題をも解消できるかもしれない。テレワークは、ピンチを「変革」や「躍進」に変える、有用な“ツール”となり得るのだ。