その鍵は、宇宙ジェット、つまり、超大質量ブラックホールが時折、爆発的に噴射する高エネルギー粒子と放射線にあるのかもしれない。ジェットが噴射される仕組みは正確にはわかっていない。しかし、どのような原因であれ、天文学者の国際チームによる画期的な2つの研究により、これらのジェットが超大質量ブラックホールの成長に役立っている可能性が示された。
『アストロフィジカル・ジャーナル(Astrophysical Journal)』で発表された1 つ目の研究は、130億光年のかなたに存在する、太陽の300倍の質量を持つ超大質量ブラックホールの発見についてである。天文学者は、チリのラス・カンパナス天文台のマゼラン望遠鏡による赤外線観測で、そのブラックホールが2015年に最初に検出されたジェットの発生源であることを確認した。この超大質量ブラックホールは現在のところ、これまでに検出されたジェットを発生するブラックホールのうち、最も遠方に位置する、つまりもっとも古いブラックホールである。
2つ目の研究は、まもなくアストロフィジカル・ジャーナルに掲載される査読前論文(プレプリント)である。その内容は、2018年に発見された、127億光年彼方に存在し、太陽の10億倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールから噴射される宇宙ジェットを検出したというものだ。同チームは、宇宙の非常に高温な物質から放射されるX線を探査する、米航空宇宙局(NASA)の「チャンドラ(Chandra)X線観測衛星」を用いてこの観測をした。この宇宙ジェットは、これまでにX線で観測された宇宙ジェットの中で最も遠方(すなわち最も古い)ものである。
いずれの発見も深遠な天文学の記録を塗り替えるものであったが、これらの発見が重要なのはそれだけが理由ではない。この2つの研究は、超大質量ブラックホールが絶えず高エネルギーの物質を放出しているにもかかわらず、なぜ急速に成長できるのかについて説明している。同チームが発見したのは、ジェットが実際にブラックホールの急速な成長を促していることを示す初めての証拠なのだ。
最初の観測では、マゼラン望遠鏡でブラックホールの存在を確認した後、チームはチリの超大型望遠鏡などの機器を利用して、質量をはじめとする、ブラックホールとそのジェットに関する他の特性を確認した。
こうした追加データにより、ジェットがブラックホールの巨大化を促す仕組みが分かってきた。ブラックホールの強い重力は、周囲の大量のガスや塵を「事象の地平面( 帰還不能点)」に引き込もうとする。こうした物質は角運動量を持つので、真っ直ぐには落下せず、事象の地平面を周回する。一方、周回する円盤上の摩擦や圧力によって加熱された物質の領域から発生する光の放射圧は、事象の地平面からガスを押し退け続ける。
実際に何が起こるのかは少し複雑だが、高エネルギー粒子からなるジェットビームは基本的に、外向きに噴射する際に、ガスから角運動量を持ち去る。あらゆる方向にガスを押し出す光の放射圧と異なり、ジェットは範囲が狭いので、遠くの密度の低いガス層と相互作用して影響を与えることはほとんどできない。このようにしてガスは何の抵抗もなく角運動量を失い、事象の地平面付近のガスの多くはすぐに落下してしまう。
「高エネルギー物質を噴射するジェットはこのようにして、ブラックホールの成長を妨げるどころか、成長させ続けているのです」と両方の論文の共同執筆者である米国航空宇宙局(NASA)の天文学者、トーマス・コナー博士は述べる。科学者たちはこれまで、ジェットがブラックホール巨大化プロセスに一役買っているのではないかと考えていたが、「今回初めて、そのことに関する本当に説得力のある証拠が発見されました」と同博士は言う。
この考えはX線観測によって裏付けられている。これらの論文で、ジェットは発生源から15万光年先にまで伸びていることが明らかになった。これまでには数千光年の長さのジェットしか観測されておらず、これほどの長いジェットがX線観測で検出されたのは初めてである。「大規模なX線検出によって、こうしたジェットが非常に長期間続いていたことがわかります」とコナー博士は指摘する。これらが一時的な現象ではなく、数十万年もの間、継続されてきた。超大質量ブラックホールの急速な成長を実際に助けるのに十分な時間である。「現在では、これが長期的なプロセスであり、実際、このようにして、ジェットが超大質量ブラックホールの成長に役立つことがわかっています。これこそ、15年前に提示された理論において、今日に至るまで欠けていた部分です」。
どちらの研究も、超大質量ブラックホールの進化とそれが初期宇宙の形成にどのようにつながったのかを解明するためのフォローアップ研究への基礎を築くのに役立つ。現在では、このような大昔に生まれたブラックホールの探し方がもっとよくわかっている。さらに、ジェットがブラックホールの成長を助ける仕組みの解明には、より多くのX線観測が不可欠であるだろうということもわかっている。
コナー博士にとっては、こうした追加の観測が重要となるだろう。そして、今回、2つの論文を続けて発表することで、博士は少しばかり興奮している。この発見により、「こうした天体が宇宙にまだ多く存在することが示されるとよいと思います」とコナー博士は言う。「できるだけ早く距離の記録を更新したいです」。