国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

シリアのアサド大統領がトルコ軍のイラク領内侵攻を支持する発言。その真意は何か?

2007年10月19日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
クルド人はトルコ・イラク・イランの他に少数だがシリア北東部にも居住している。このことを考えると、トルコ・イラン・シリアがクルド分離独立運動阻止で協力関係にあるという仮説が成立するだろう。ただ、私はこの仮説に今ひとつ納得しきれないものを感じる。例えば、トルコ南東部のシリア国境沿いには本来シリアに所属すべきアラブ系住民が居住している。欧米が植民地支配のために引いた国境線が民族の境界と一致していないことが全ての元凶なのだ。この問題を解決しない限り、中東諸国は国内での民族対立を回避できない。民主主義を導入しても民族対立が国政の主要な争点になってしまい、結果的に民主主義が機能しなくなるのだ。ネオコンが主張する「中東の民主化」の為には、民族の分布に一致した新たな国境線の引き直しが必要不可欠であり、米国のイラク侵略はそれを実現することが大きな目的であると私は想像している。また、クルド語はペルシャ系言語である事を考えると、クルド人国家の成立はイランにとって兄弟国家が成立することを意味すると考えられ、国内クルド人の分離独立によって領土が減少することを上回る利益がある、とも考えられるのだ。 このように考えると、シリアやイランのトルコ支持の姿勢は、建前では国内クルド人分離独立運動の抑制という国内事情が理由ということになるが、両国は本音ではクルド人国家の成立とそれに伴う中東の国境線の引き直しを支持していると想像される。そして、トルコの支配階層もまた本音では貧しくイスラム原理主義的なクルド人をトルコ国家から切り捨てることを願っており、PKKの活動を好ましいと考えていると想像する。 トルコのイラク領内侵攻は北イラクのクルド人自治区との戦争を引き起こし、トルコ・イラン・シリアのクルド人の分離独立運動を巻き起こして結果的にクルド統一国家を建国させる引き金になりうると私は想像する。この引き金をトルコに引かせるためにシリアのアサド大統領はトルコ支持発言を行ったのではないか、というのが現時点での私の想像する仮説である。 . . . 本文を読む
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