エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-IV-14

2020-11-05 08:57:00 | 地獄の生活

危険は非常に大きく差し迫ったもののように見えたので、すべての男たちは立ちすくみ、互いに目でけしかけ合っていたが、たかが数枚の紙幣にしか値しないしょぼい戦いに誰も敢えて挑もうとはしなかった。

「私が通れるようにそこをどくんだ!」とパスカルが命令した。

男たちはまだ躊躇っていたが、やがて脇に寄って道を空けた。

尚も迫力で男たちを脅しながら、パスカルはサロンのドアまで進み、姿を消した。あのように心の折れるような打撃を受けた後の憤激の迸り、プライドの爆発、そして脅しは非常に目まぐるしく展開したので、彼の行く手を阻もうと考える者は誰もいなかった。一同が我に返ったときには、パスカルは既に通りに出ていた。魅入られたような沈黙を破ったのは、やはり女の一人であった。

「なんとまぁ」彼女は感嘆の口調で言った。「クールな男だったわね!」

「そりゃそうさ! 金を護らなくちゃいけなかったからね」

この表現は、まさにド・コラルト氏が用いたのと同じものだった。そしておそらくパスカルに立ち去る気をなくさせた言葉だった。皆が拍手した。但し、男爵だけは加わらなかった。この男は非常に裕福で、ゲーム好きが高じてヨーロッパ中のあらゆるいかがわしい場所に出入りし、いかさま師たちとは知り合いの仲だった。自家用馬車で乗りつける者から長靴にさえ不自由する者に至るまで、さまざまな階層のならず者と触れ合ってきた。数多くの吊し上げの場面を彼は見て来た。罪を告白し、自分が騙した相手に跪いて許しを請ういかさま師もいれば、騙し取った札束を飲みこむ者、鞭打たれるために背中を差し出す者、あるいは正直者の口調で相手に食ってかかる者、等……。しかし、いまだかつてあのような誇りに満ちた視線で告発者たちを威嚇したペテン師を、彼は見たことがなかった。このような思いに耽った後彼は、最初にパスカルの腕を掴んだ男に近づいた。

「正直なところ、あの男がカードを滑り込ませるところを貴殿は見たのか?」と彼は尋ねた。

「いや、実は見ていません。しかし、夜食のとき皆が同意したのをご存じでしょ? あの男がいかさまをしていたのは間違いない、と皆が確信を持ってたじゃないですか。カードの数を数える口実が必要だったんです」

「しかし、あの男が無実だったらどうするつもりだったんだ!」

「そんなこと、誰にも言えませんよ。 だって、あの男だけが一人勝ちしてたんですよ」

パスカルを圧し潰したこの酷い論法に、男爵は何も答えなかった。それに、ちょうど彼の仲裁が必要な事態が生じていた。パスカルが自分の席の前に残していた金や札束の周りで人々が大声を上げ始めていたからだ。数えてみると、三万六千三百二十フランあった。負けた者たちの間でそれを分配することになるのだが、その点で人々がもめていたのである。この中には上流階級に属する人々や、ついさっき身体検査を求めた人々がいたが、彼らの中に自分の損失を水増ししている者がいることが一目瞭然だった。彼らの申告額を合計すると、九万一千フランという驚くべき数字になった。今逃げて行った男がその差額を身に着けて行ったのであろうか? それは考えられなかった。11.5

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