「ほらね」と女の一人が言った。「卑怯者っていうのは自己弁護さえ出来ないのよ!」
パスカルはわざわざ振り向いてその女を見ることなどしなかった。こんな侮辱は彼にはどうでもよかった。彼は自分が無実でありながら最もおぞましい恥辱の中に転落していくのを感じていた。辱めを受け、罪人の焼き印を押され、破滅させられて行くのを。
事実に対しては事実で対抗せねばならぬことを理解していた彼は、真犯人の正体を暴くため、自分の命に代えても、ひとつの考え、解決策、インスピレーションを与えてくれと神に祈った。
彼に救助の手を差し伸べたのは別の男だった。まさかこの男にそんなものがあろうとは誰も思わなかったような大胆さで、ド・コラルト氏がパスカルの前に進み出た。そして苦渋より憤慨の勝った口調で言った。
「皆さんは甚だしい誤解をしておられます。パスカル・フェライユールは私の友人であります。彼の過去を見ていただければ、それが現在の保証となります。裁判所に行ってお聞きになればよろしい。この清廉潔白な男が今非難されているような卑劣な行為の出来る人間かどうか、答えてくれるでありましょう」
誰も言葉を返さなかった。フェルナンは彼が義務だと考えていることを口にしているだけである、というのが一同の考えであったらしい。ゲームの中断と再開を決定した老紳士は一同が受けた印象の代弁者であった。彼は太った男で、喋る際にはアザラシのように荒い息を吐き、男爵と呼ばれていた。
「貴殿の取った行動は大変結構だ」と彼はフェルナンに向かって言った。「いかにも、大変結構、名誉を重んずる男の言葉だ。しかしこの場合は当てはまらぬ。彼が不正直な男であるということは貴殿の災難だ。悪党には特別な印がついているわけではないからな……」
「それはいわゆる『へま』ってやつですよ、子爵!」と若い男が冷笑を浮かべながら言った。
ド・コラルト氏はこの男の前までつかつかと歩み寄った。
「おい君、その言葉の意味を説明してくれないか」と彼は言った。
「お望みとあらば!」
二人は互いに鋭い視線で睨み合ったので、彼らは隣の部屋に連れて行かれた。皆の心中には、子爵は挑発されたのだから、その相手に突っかかって行くのは当然で正当なことでもある、という思いがあった。
このときまでパスカルは口を堅く閉じ、唇さえも動かさなかった。自分に飛び掛かって抑えつけている男たちの手の中でしばらくもがいた後、彼はじっと動かず、自分を卑劣な罠に陥れた悪党を見つけ出そうとするかのように、荒々しい視線で周囲を見回していた。自分が悪辣な策略の犠牲となったことに疑いはなかった。ただ、その目的が何であるか、皆目見当がつかなかった。
突然、彼を取り押さえていた者たちは彼の身体が震えるのを感じた。彼は身を立て直した。希望の微かな光を見出したのだ……。
「私に抗弁の機会を与えて貰えますか?」と彼は尋ねた。
「話すがいい」11.2