「それは不可能です」
「フェライユール氏のため、ではなく、お母様のために、とお願いしてもですか。あのお気の毒な未亡人の……」
「パスカルは身を隠さなくてはならないでしょう」
「どうしてそこまで仰るの! それほどまでに彼を憎んでいると? 彼が一体あなたに何をしたと言うんです?」
「僕個人にですか? 何も。僕は彼に心から同情しているくらいですよ……」
マダム・ダルジュレは凍り付いたようになった。
「何ですって!」彼女は口ごもりながら言った。「そ、それじゃ……貴方があんなことをしたのは、自分の利益のためではなかったと言うの?」
「ああ、もちろん違いますよ!」
彼女はムッとし、姿勢を立て直すと、軽蔑と憤りで声を震わせながら言った。
「ああ、それでは更にもっと破廉恥なことね。更にもっと卑劣極まりない……」
彼女は途中で言い止めた。ド・コラルト氏の目に威嚇の光が宿ったのを見て驚愕したのであった。
「不快な真実の暴露はもうおしまいにしましょう」彼は冷たい口調で言った。「僕たちがお互いに思っていることをぶつけ合ったら、たちまち大変醜い争いになる……。貴女は僕が面白半分にあんなことをしたと思っているんですか!予め用意されたカードの山に別のカードを滑り込ませる瞬間はまぁ素晴らしいもんでしたよ。誰かに見られたら、一巻の終わりでしたからね……」
「で、あなたは誰にも見られなかったと思っているわけね?」
「ええ、誰にも……だって僕は百ルイ以上負けてたんですよ……もしパスカルが上流階級の人間だったら、ちょっと心配なことになるでしょうが、明日になれば彼は忘れ去られますよ……」
「でも彼の方は、何も怪しんではいないかしら?」
「彼は、いずれにせよ、なんらの証拠も出せません……」
マダム・ダルジュレはこの事件についての決心を固めたようだった。
「少なくともこれだけは言って欲しいものね」彼女は言った。「貴方が誰に唆されたのか、その名前を」
「それは、言えません」とド・コラルト氏は答えた。そして時計を見て叫んだ。「あ、忘れてた!あのロシュコットの馬鹿が剣を交えようと待っているんでした。それじゃ、マダム、おやすみなさい。さよなら」
彼女は踊り場まで彼を見送った。
「これからフェライユールの敵に会いに行くことは間違いないわ」と彼女は思い、腹心の召使を読んだ。
「急いで、ジョバン」と彼女は言った。「ド・コラルト氏の後をつけて。どこへ行くか知りたいのよ。くれぐれも彼に見られないように気をつけてね」11.11