エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-IV-16

2020-11-07 09:03:40 | 地獄の生活

「社会的地位ですか!……さあ、知りませんね……。パスカルは非常にきちんとした堅気の青年に見えます……賢者という評判ですよ。住まいはパンテオンの裏のあまり人の行かないところで、母親と一緒に暮らしています。母親というのは未亡人で、いつも黒い服を着ているきちんとした人です。僕が初めて訪ねた際にドアを開けてくれたとき、家族の肖像画から抜け出してきて僕を迎えてくれたのかと思いましたよ。暮らし向きは、あまり裕福ではない様子で……パスカルは将来有望な男とされてましてね、法曹界で大物になると言われています……」

「ところが今となっては、それもおしまいね。出世の道は断たれてしまった……」

「たしかに! 夜になる前にパリ中の人が、今夜ここで起きたことを知るでしょうからね……」

彼は言葉を止め、いかにもびっくり仰天したという風を装ってマダム・ダルジュレを見た。彼女は目つきで人が殺せるものならそう出来そうな迫力で、彼に向かって突進してきた。

「あなたは極悪人ね、ド・コラルトさん!」彼女はぴしゃりと言った。

「え、僕が! 一体なんでですか?」

「何故なら、カードをこっそり滑り込ませたのは貴方だからよ。フェライユール氏に勝たせるために。私はちゃんと見たのよ!私が懇願したとき、あの気の毒な人は立ち去ろうとしていたのよ。それなのに貴方はうわべは不器用さを装いながら、その実、周到に計算して、彼を救おうとした私の邪魔をした。ああ、否定しても無駄ですよ」

彼は立ち上がった。完璧な冷静さを保っていた。

「僕は否定などいたしません、奥様」と彼は答えた。「何も否定はいたしません。もちろん、ここだけの話ですが」

この臆面もないずうずうしさにたじたじとなって、マダム・ダルジュレはしばらく言葉を失っていた。

「貴方は白状するのね」とついに彼女は言った。「ぬけぬけと白状するのね!それでは私が見たことを大きな声で皆に言っても、構わないと貴方は言うのね!」

彼は肩をすくめた。

「誰も信じないでしょう」と彼は答えた。

「信じますとも、ド・コラルトさん。だって私は証拠を挙げられますもの。私が貴方の過去を知っているってこと、お忘れのようね。私は貴方が誰だか知っています。貴方がその借り物の爵位と名前の下にどんな恥ずべき名前を隠しているか。貴方がどのように結婚したか、卑劣にも妻と子供を捨てた後、貧苦と飢えの中で彼らを見殺しにした顛末を私は知っている。貴方が一年で遣ってしまう三万フランか四万フランをどこで手に入れているか、知っている。ローズが私に全部話してくれたのよ。もう忘れたと言うの、え、ポール?」

今回は、彼女は痛いところを突いた。ズバリと突かれ、ド・コラルト氏は真っ青になり、いまにも彼女に跳びかかるような怒りの素振りを見せた。

「ああ、気をつけてものを言えよ!」彼は叫んだ。「用心しろ!」11.7

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