エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XIX-11

2022-04-06 14:45:23 | 地獄の生活

千鳥足の者もいれば、飲み過ぎて理性を失い、頭を低く垂れたまま立ち去ったり、訳の分からない言葉を不機嫌にぶつぶつ言ったり、同様に泥酔しているものの、もっと威勢の良い者たちは歌いながら、あるいは大声で道路掃除人たちに話しかけたりしていた。あまり酔っていない者たちは、日が昇っているのに恥ずかしさを覚えるのか、全速力で道の端をそそくさと去っていった。自力で立っていられない客を馬車まで抱えていく数人のウェイターたちの姿もあった。やがて店の前には夜の馬車が五、六台残っているだけとなった。御者たちは声を涸らして呼びかけ、元の持ち場に帰る前に最後の客を拾おうと奮闘していた。

「四人乗りですよ!」彼らは叫んでいた。「さぁさぁお客さん、四人乗り!」

 シュパンの前に立ちはだかって彼を通すまいとした、あの黒い制服を着た男、そしてウィルキーがフィリップと呼んだ男、が出て来たところを見れば、もう店ではすべての客が支払いを済ませ、殆ど誰も残っていないに違いなかった。フィリップはパルトー(前ボタンの短い外套)を着込んではいたが、寒そうな陰気な顔で大股に歩いて立ち去った。昼間寝て、夜は一晩中立ちっぱなしで他人の歓楽のための殉教者となり、酒瓶の底にはどれほどの愚かな行為があり、『お楽しみ』という言葉の背後にはどれほどの欠伸が隠されているかを知っている男の顔だった。

 「あ、あの男だ」とシュパンは不安な気持ちになった。ウィルキーと彼の連れはもう帰ってしまったのか?

 しかし、彼らはちゃんと現れた。しばらく歩道で輪になってなにか話していた。彼らは朝日を浴びて眩しそうに充血した目をしばたたかせていた。唇はだらしなく垂れ下がり、冷たい空気が生気のない頬に青っぽい斑点をつけていた。黄色い髪の女たちの化粧は崩れ、メークがぐちゃぐちゃになり、彼女たちの真の姿、醜悪な、を見せていた。彼女たちは残っていた唯一の馬車に乗り込んだが、それは一番うらぶれた乗り物で、御者は可哀想な馬を動かすのにかなり苦労をしていた。一方、男たちは徒歩で遠ざかっていった。

 「さぁて」とシュパンは自分に言った。「出発だ」

このような朝の時間に、キャバレーで一夜を過ごしたことが丸分かりのだらしない服装でブールヴァールを歩いて帰らねばならないのを恥ずかしく思う男たちは多いであろう。しかしウィルキーと彼の仲間達---明らかに不機嫌そうなド・コラルト子爵を除いて---はそんな自分たちが誇らしげで得意満面だった。彼らが通行人たちから受ける視線でそのことが明らかに読み取れた。彼らは自分たちが『お洒落』で、そのような印象を人に与え世間にアッといわせていると思っていた。それ以上に何を望むことがあろうか?4.6

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