エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XIX-14

2022-04-11 08:37:14 | 地獄の生活

 彼が急いでいたには理由がある。今日は日曜だったからで、フォルチュナ氏は殆ど毎日曜田舎に出かける習慣があり、彼に会えないかもしれないと怖れたからだ。ラ・ブルス広場までずっと走りながら、シュパンは頭の中で話すべき内容を考えていた。そして『真実をすべて話すことは必ずしも得策ではない』という格言の意味をよくよく吟味した。あのレストランでの場面のことを報告すべきだろうか? コラルトの名前を出して、ウィルキー氏には何も教える必要はないのだということを言うべきか? 熟考の末、やめておくことにした。もし言えば、フォルチュナ氏はこの件から手を引く決心をするかもしれない。彼の不利益を自分自身で発見させ、後ですべてを明かした方が良かろう。そうすることで彼の怒りを利用して復讐の機会が得られるのではないか……。

好都合にもこの日曜、フォルチュナ氏は田舎に行かないと決めていた。彼はのんびりと朝寝坊をした後で、シュパンが着いたときにはまだ部屋着を着ていた。シュパンの顔を見ると彼は喜びの声を上げた。こんなに早く姿を見せたということは吉報を持ってきたに違いないと思ったからだ。

 「うまく行ったんだな?」と彼は叫んだ。

 「はい」

 「ダルジュレ夫人の息子を見つけたか?」

 「ええ、捕まえましたとも!」

 「そうかそうか、お前は目端の利く若者だと思っていたよ。それじゃ、早速聞こうか……ああそうだ、こうした方がいいな。ちょっと待ってくれ!」

 彼が呼び鈴を鳴らすと、家政婦のドードラン夫人が急いでやって来た。

 「ナイフとフォークをもう一組持ってきてくれないか。シュパン君が私と一緒に朝食を取るのでね……彼の分も頼む。構わないね、ヴィクトール? もう十時だから私はお腹がすいている……白ワインを飲みながらの方が落ち着いて話せる」

 これは破格のもてなしだった。そのことでシュパンは自分のした仕事がどれほど評価されているかを知ることができた。だからと言って舞い上がりはしなかったが、来る前に食べてこなければよかった、と後悔した。

 フォルチュナ氏の方では、このもてなしを後悔はしなかった。テーブルに着き、自分の空腹も忘れてシュパンの報告に聞き入っていた。

 「よくやった!」と彼は何度も叫んでは話を遮った。「でかしたぞ! お前ほど気の利くやつはいない! 私がやったとしても、そこまでは出来まいよ! お前には十分に礼をする、この件が上首尾に終わったらな」4.11

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