ついに九時半少し前になったとき、マダム・レオンが叫んだ。
「いらっしゃいました! お嬢様、聞いてらっしゃいます? 将軍がいらっしゃいましたよ」
一分後、つまり階段を二段抜きで上がってくるのにちょうどそれだけ掛かったわけだが、部屋のドアをそっと叩く音がして、家政婦がドアを開けると、ド・フォンデージ氏が姿を現した。氏の言葉を借りると『りゅうとした』礼服に身を包んでいる。
「いやいや遅れてしもうたわい!」と彼はまず言った。「これはしたり! しかし、これはわしの所為ではない!」
彼はじっと動かずにいるマルグリット嬢に驚き、彼女の方に進んできた。そして彼女の手を取りながら言った。
「しかし、可愛いマルグリット、一体どうしたのだ? 身体の具合でも悪いのか? 顔色が恐ろしく真っ青だ」
彼女は殆ど麻痺しているような無気力状態に陥っていたが、それを無理矢理振り払い、弱々しい声で答えた。
「私、病気ではありません」
「そうか、それはよかった、嬢ちゃんや、それは何よりだ。心じゃな、心が痛むのじゃろ?うむ、よく分かるぞ。しかしお前には味方がおる。わしたちを頼りなさい。大丈夫じゃとも!妻からの手紙は受け取ったのじゃろ? よしよし、妻は約束したことは必ず守る女じゃ。その証拠に、妻は熱があるにも拘わらず、わしに着いてここまで来た。ほれ、ここにおるぞ!」6.6