マダム・レオンが予め侯爵に、ド・シャルース氏の葬列参加者の第一陣の一人として来てくれるよう頼んでいたことは明白であった。それでいま彼にド・フォンデージ夫人の存在を警告しに行ったのだ。こういったことは実に些細なことであった。しかし人生を決定することになるのは往々にしてこのような些事である。そしてマルグリット嬢にとっては、闇の中に見出す光のようなものであった。か細い手がかりではあっても、それを手繰っていけば真実に辿り着くことが可能かもしれない。今の出来事はフォンデージ夫妻とド・ヴァロルセイ侯爵の利害が対立していることを彼女に教えた。従って彼らは互いに激しく憎み合っているに違いない。辛抱強く機会を窺っていれば彼らが互いに攻撃しあうようにもって行けるかもしれない……。
それに、マダム・レオンがスパイとして仕えているのはド・ヴァロルセイ侯爵であることも分かった。ということは、侯爵はかなり前からパスカル・フェライユールの存在を知っていたことになる……。しかしマルグリット嬢には今知ったこれらの事柄から何らかの結論を引き出している時間はなかった。彼女が姿を消したことでフォンデージ夫妻がなにか怪しんでいるかもしれない。今の彼女に出来ることは騙された振りをしていること、それが上手くいくか否かに彼女の将来が掛かっている……。それで彼女は急いで戻り、もっともらしい言い訳をした。しかし彼女は嘘を吐くことの出来ない性質だったので、しどろもどろになった。もし幸運にも将軍が彼女の言葉を遮らなかったら、嘘を見破られていたかもしれなかった。
「ああいやいや、わしの方でももう行かねばならぬ」と彼は言った。「お前はマダム・フォンデージのそばに居なさい。わしには大事な務めがあるのだ。葬送の儀式を取り仕切らねばならん。人が待っておる。遅刻などというのはわしの人生で初めてのことじゃ」
将軍は大慌てで階段を降りて行った。邸の壮大な大広間では少なくとも百五十人の人間が集まり、ド・シャルース氏の棺を見送ろうと待っていたが、こんなに待たされるのは変だとざわつき始めていた。しかし好奇心を刺激する噂が退屈な待ち時間を多少和らげていたかもしれない。伯爵の死には何か謎めいたものがある、ということが口から口へと伝えられ、情報通の者たちは、相当な大金がまだ年若い娘であるマルグリット嬢によって横領されたと話していた。人々はこの大金隠しを犯罪とは考えておらず、それをやってのけた娘は現実的でしっかり者であるとし、その美貌の娘と大金を手にすることが確実と噂されているド・ヴァロルセイ侯爵という男になり代わりたいものだと言い募る者もいた。
この遅延に一番じりじりしていたのは葬儀屋の執行責任者であった。最高の礼服に身を固め、痩せた向こう脛に絹のストッキングを履き、光沢のある繻子織のコートを羽織り、シルクハットを脇に挟んだ彼は、そこら中を駆け回り、故人の家族や親族、友人など、「それでは只今より……」と葬送の行進の合図をしてくれる誰かを探していた。6.16