相手から何の反応も得られなかったので、悲しみに威厳を添えて彼女は付け加えた。
「今すぐに私たちをお頼りなさいとは言いませんわ、愛する可哀想な子……信頼というものは長い時間をかけて互いに敬意を持つことによって初めて生まれるものです。貴女にもそのうち私という人間が分かってくるでしょう。そしてお母さんという優しい名前で私を呼んでくれるでしょう。私がその名にふさわしい人間だということが分かったらね……」
将軍は少し離れたところに立ち、自分の有能な妻が何をやってのけるか十分分かっている夫として、惚れ惚れと妻を眺めていた。
「これで氷が融かされたぞ」と彼は思っていた。「アテナイスの手にかかれば、あの社交嫌いの無作法娘を丸め込むことなど造作もないことだ!」
彼の希望的観測は彼の表情に顕れていたので、横目で彼の様子を窺っていたマダム・レオンはすべてを察した。
「あらまぁ、どういうこと?」と彼女は思っていた。「この人たちは何を狙っているのかしら? あんなにベタベタしたりなんかして。おやおや、これは大変。ご注進に行かなくちゃ」
そして誰にも見られていないことを確かめると、彼女は足音を立てずにドアのところまで行き、すばやく外に出た。
しかしマルグリット嬢は監視を怠ってはいなかった。自分の身の回りに蠢く未だ何とは分からない陰謀を突き止めようと彼女は決心していた。その陰謀を挫くためには、どんな些細なことにも注意し、それをもとに事態を把握することが必要だと理解していた。
従って、彼女は将軍のほくそ笑みも見ていたし、それがマダム・レオンに不安を惹き起こし眉を顰めさせたことにも気がついていた。マダム・レオンが人目を避けながらそっと出て行った様子から、なにか重大な理由があるに違いないと彼女は理解した。それで、礼儀を失するのも構わず彼女はド・フォンデージ夫妻に向かって言った。
「ちょっと失礼いたしますわ」
そして呆気に取られている夫妻を残し、彼女は走って外に出た。遠くまで行く必要はなかった。手摺の上から身を屈めると、玄関ホールにマダム・レオンの姿が見え、話をしている相手がド・ヴァロルセイ侯爵であることが分かった。侯爵はいつものように冷淡で傲慢な態度で、マダム・レオンの方は勢い込んで話していた……。6.15