彼が自分でその号令を掛けることを口にし始めたとき、ド・フォンデージ氏が現れた。それから棺覆いの紐を持つ役目の故ド・シャルース氏の友人たちが進み出、豪華な葬儀馬車が動き出した。ちょっとした混乱があったが、いよいよ葬列が進み始めた。しいんと鎮まり返った中に、舘の門がひとりでに閉まる際のギイッという音が陰気に響いた。
「さぁ行きましょう」フォンデージ夫人が呻くように言った。「すべては成し遂げられました(十字架上でキリストが最後に言ったとされる言葉)」
マルグリット嬢は言葉では答えず、悲しみに沈んだ身振りを示しただけだった。声を出すことさえ出来なかった……涙で喉が塞がっていたのだ。彼女は一人になりたくて堪らなかった。そうすれば身を切るようなこの感情に身を任せることができるのに。だが、こんなときでも慎み深さが彼女を縛り、陰気な演技を強いていた。礼を失してはならないという気づかいと将来への不安から、彼女は感情を読み取られないよう無表情でいることを自らに課し、口先だけの慰めの言葉に耐えていた。自分にとって最も危険な敵と分かっている女からの。
この『将軍夫人』の慰撫の言葉は留まるところを知らなかった。たくましく力強い胸の下に素晴らしい思い遣りの心を隠している肝っ玉おっ母の役割を演じさせれば彼女の右に出る者はいなかった。そして人生の儚さ、不安定さについて長々と講釈を垂れた後ようやく彼女は昨夜の手紙で触れていた話題へと話を持ってきた。
「結局のところ、現実的な問題に立ち返らなくてはね」と彼女は続けた。「人生には卑俗でうんざりするような現実に直面することが必要なのよ。現実は愛する人を失った悲しみにいつまでも配慮してはくれないものよ。今のところ貴女は平和な涙に暮れることに悲しい喜びを感じているかもしれないけれど、そのうち貴女の将来のことを考えなくてはいけないのよ……ド・シャルース様は相続人をお決めにならなかった。そうすると法律上、貴女はこの家にいられなくなるのよ……もはやここに留まることは出来なくなります」
「ええ、分かっています」
「それじゃ、どこへいらっしゃるの?」
「ああ、それは!」
ド・フォンデージ夫人はハンカチを目に持って行き、あたかも涙を拭うかのような仕草をした。それから出し抜けに言った。
「貴女には本当のことを言わなくてはなりません、大事なマルグリット、聞いて頂戴。貴女の取るべき道は二つしかない。ちゃんとした家庭に保護を求めるか、修道院に入るか、のどちらかよ。それ以外に救われる道はないわ」6.19