マルグリット嬢は頭を垂れたまま何も言わなかった。『将軍夫人』の本心をさぐるには、相手に大いに喋らせておくのが唯一の方法であろうと考えたのだ。
沈黙はド・フォンデージ夫人を不安がらせたようであった。彼女は再び口を開いた。
「人生にはいろんな困難や危険が付き物ですよ。そんなものに一人で立ち向かうなんてこと考えられて? ああ、私にはそんなこと考えられない! そんなこと、狂気の沙汰だわ。いいこと、貴女みたいに若くて、綺麗で魅力的で、素晴らしく才能のある娘さんが、一人で自立して生きていくなんてこと不可能よ。清く正しく生き抜いて行くだけの強さが貴女にあるかしら? 世の中は貴女の高潔さを認めてはくれないものよ。たった一人で生きている女の子の身持ちが良いとは誰も思ってくれないわ。そんなの偏見だ、と貴女は言うでしょうけれど……そういうものなのよ……勇ましい考えを持つ娘は堕落した娘だというのは、やっぱり当たっているのよ……」
『将軍夫人』の熱弁の狙いは明らかだった。彼女が何より恐れているのはマルグリット嬢が自分の自由を行使することだった。
「ではどうすればよいと仰るのですか?」とマルグリット嬢は聞いた。
「今言ったではありませんか。修道院というものがあるのです。どうしてそこに行かないのです?」
「私は現世を生きたいと思います……」
「それならば、どこか尊敬すべき家の門を叩くのです」
「誰かの負担になって生きていくなんて嫌です」
言いたいことは明白なのに、ド・フォンデージ夫人はこれに対し異を唱えなかったし、自分の家に来るようにとも言わなかった。彼女はあまりにもプライドが高かったのである。それに、一度勧めて受け入れられなかったものを更にしつこく促すのは警戒心を抱かせることにもなろう……。それで彼女は今挙げた二つの選択肢しかないということを納得させるための理由を数え上げるだけに留めておくことにした。それらをこれからも折に触れて繰り返せばよい、と……。
「決めるのは貴女よ!……でも最後の最後まで結論を引き延ばすのはおやめなさいね!」
マルグリット嬢の心は決まっていた。ただ、それをはっきり口にする前に、この世でただ一人の彼女の味方に相談をしたかった。あの治安判事である。
昨夜、彼は「ではまた明日」と言った。封印貼付の作業がまだ終わっていないことを彼女は知っていたので、まだ彼が姿を現していないことが意外だった。今か今かと彼女は待ち続け、その間にやってきた儀礼的な訪問の応対はうまく断り続けた。やがてついに召使が来て言った。
「治安判事様でございます」6.22