パスカルがトリゴー男爵邸に自らのことを打ち明けるに来るには、多少の不安がないわけではなかった。が、ここまで内情を聴いてしまった今はもはや躊躇したり心配したりする必要はない。安心して彼は話すことができた。
「ド・コラルト氏が予め準備していたカードを私に配ることで私を勝たせていたということは言うまでもないでしょう」と彼は話し始めた。「全く明らかなことです……何があろうと、私はこの仇は討つ所存です……しかし、彼をやっつける前に、彼が手先となっている黒幕を突き止めねばなりません」
「なんと! ではあなたは疑っておられるのか……」
「疑っているのではありません。確信を持っています。その悪事をする度胸もない卑怯者のためにド・コラルト氏が働いていることを」
「それはあり得るな。しかし、奴にそんなことをさせられる悪党に心当たりがないが……。一体誰が彼をしてあのような非道な行動に出るように仕向けたのだろう!」
「ド・ヴァロルセイ侯爵です」
この名前を聞いて男爵は椅子の上から飛び上がった。
「まさか!」と彼は叫んだ。「絶対にあり得ん! ド・ヴァロルセイ侯爵はあなたが言うような卑劣な真似のできる人ではない。いやいや、それどころか、あの方はそんな疑いをかけることさえ出来ぬ廉直の士ですぞ。あの方とは長年の付き合いだが、あれ以上に公正で誠実で勇敢な人間は見たことがない。正直に申して、彼とは友達付き合いをしていて毎日のように会っている間柄です。実は今日もここにやって来る筈です」
「しかしコラルト氏にあれをさせたのは彼です」
「何のために? 目的は何だと思われる?」
「私の愛している娘と結婚するためです……彼女は……彼女も私を愛してくれていました。それで私が邪魔だったのです。私をやっつけるのに一番確実なのは私を殺させることです。ですが、私が死ねば彼女は泣くでしょう。しかし私の名誉を傷つければ彼女の心は私から離れるでしょう」
「してみるとヴァロルセイはその娘さんにぞっこん参っているのですか?」
「私の考えでは、彼は彼女に興味はないと思います」9.7