主義から言っても、また必要上からも、彼は人に対しては寛大であること、そして赦すことを公言し、実践していた。というわけで、自分を訪れてきた客人を罠にかけるようなことには大いなる嫌悪感があった。しかしパスカルには真実を明確にするために出来る限りのことをすると約束していたし、自分でも明らかになる真実には非常に興味があった。
「そうですか」と彼は侯爵に言った。「ニネット・サンプロンには煩わされずに済む、ということですな。それより私がちょっと首をひねってしまうのは、貴殿が結婚を前にして節約を口にされるということですよ。この結婚で少なくとも貴殿の財産は二倍にはなるでしょうに……。よほどしっかりした財政上の基盤がなければ、貴殿が自由を手放したりはするまい、と私には思われるのですが……」
「それは違いますよ!」
「どういう意味ですか?」
「あなただからお話しましょう、男爵。私がこれから結婚する若い娘は一文無しなのですよ……。私の未来の妻には持参金はなし、あるのは彼女の美しい目だけです……それは素晴らしい目ですがね」
この言葉は、少なくとも額面通りに受け取れば、パスカルの主張を真っ向から否定するものであった。
「それは本当のことですか!」と男爵は聞き返した。「貴殿のような実利に敏い現実主義者が感情に身を委ねるとは!」
「まさにその通りなのです!」
驚きを表しても何の支障もないと判断した男爵は大きく目を剝いた。
「それはまた!」と彼は言った。「よほどその未来の奥方を崇拝しておられるようですな……」
「崇拝などという言葉では足りません」
「なにか夢でも見ているような感じがしますな」
ヴォロルセイは肩をすくめて見せた。人に馬鹿にされることを諦めて受け入れた男のそれである。それから感動と皮肉を滲ませながら言った。
「私の色恋沙汰も究極の道化役者のそれになりましたよ。仲間内では良い笑いものになっていることは承知しています。ま、残念なことです。が、私はいつも自分の意見を押し通す勇気だけは持ち合わせていますのでね。私は恋をしているんです、男爵、もう高校生と全く同じですよ。夕方になると彼女の姿を一目でも見られるのではないかという希望を持って彼女の家の周りを徘徊するほどに。自分でもどうしてこんなことになったのか分からない有様でして……。