アヴァターラ・神のまにまに

精神世界の研究試論です。テーマは、瞑想、冥想、人間の進化、七つの身体。このブログは、いかなる団体とも関係ありません。

冷暖自知

2023-05-12 06:32:08 | 達磨の片方の草履

◎体験とは言えない体験

 

蘄(き)州黄梅県(湖北省黄岡市黄梅県)にあった禅の五祖弘忍の下で、坐禅はせずに米つきばかりやっていた六祖慧能は、夜中に五祖に呼び出され、伝法者の証拠である衣鉢を授与された。ところが五祖弘忍の言うには、多数の修行者がいる寺で、僧のランクでいえばごく末端の六祖慧能が、禅の最も重要な秘密を引き継ぐということがけしからぬということで、ねたみそねみにより、衣鉢を奪ったり命を狙おうとする者が出るのは間違いない。よって、たった今から密かに南方に逃げ帰りなさいと命じた。

 

五祖は、慧能を九江の駅まで送り、さらに渡し舟の櫓を自ら漕いで江を渡してやった。

 

二か月ほど経って慧能は、大庾嶺(だいゆれい)の頂上にやってきた。ところが想定通り数百人の弟子たちが慧能を追跡してきていた。大半は途中であきらめたが、その中の一人古参僧の恵明が追いついたので、慧能はさっさと彼に衣鉢を渡した。

 

すると恵明は、はたと考え込んで、「私は法を求めるのであって、衣鉢を求めているのではない」と言い出した。

そこで慧能は「善を思わず悪を思わず、あなたの本当の自分はどこにあるか。」と問うと、恵明は即座に大悟し全身から汗が流れた。恵明は、その悟りのプロセスを「人が水を飲んで、冷暖自ら知るが如し。」と語った。

 

水の冷たい暖かいが、飲めばわかるということはわかるが、そうしたものであることは、体験とは言えない体験をしてみて初めてわかることであって、言葉で伝えられはしない。

コメント
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