ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

自衛隊観艦式観覧記~「機関科の人々」

2012-11-04 | 自衛隊

ブログを始める二年半前までは、護衛艦にどんな装備があるのか、
全く関心も無く知ろうともしなかったエリス中尉であります。

当然、搭載武器などについても全く知識がなかったのですが、
現代の科学をもってすれば、ここまで「人力不要」の精度の高い攻撃が
可能となっていたのか、と驚くばかりです。

ところが、そんな「完璧」に見える武器でも、有効攻撃率は100パーセントではない、
ということを全海幕長から伺って、改めて思いました。
どんなに科学が進歩し、ハイテクなハードができても、それを動かすのは乗員なのだと。

最先端の武器を搭載し、コンピュータで操作する護衛艦であっても、
もし隊員の練度が低ければ、艦の能力は全く生かされないのですから。

先日からこのブログのコメント欄では、中国の国力を注ぎ込んだ軍備拡張について、
いろんな意見が交わされましたが、そこでも結局は
「中国の軍事力は物量において圧倒的だが、いかんせんソフトが追いついていない」
というあたりに着地したやに思われます。

国そのものがそうであるように、中国は危険なおもちゃを持っている子供のようなものだ、と。


それに比べると、旧海軍のノウハウと精神を大きく受け継いだ海上自衛隊は、
遙かに促成栽培のような中国海軍を凌駕する力を持っている、
といってもいいのでしょうか。


決して優遇されているとはいえないその立場で、彼らの練度は世界的に見ても
大変に高いということが、あらゆる逸話で証明されています。

一例を挙げると

海中での作戦行動中の潜水艦を発見し、追跡出来る能力を持つのは
世界でア
メリカ海軍と自衛隊だけである

日米合同演習での模擬戦。
楽勝楽勝と当初余裕をぶっこく米軍に対し、
海自の潜水艦からのピンガーで、米海軍の駆逐艦は瞬時に撃沈判定。
海自の潜水艦は遥か遠くからエンジンを停止して、海流の流れだけで
アメリカの駆逐艦の真下に到達していたという。
面子を潰された米海軍がマジになって潜水艦を追尾するも、悠々離脱する。

対潜水艦能力は米軍に次ぐ世界2位

掃海能力は世界一


陸自空自も入れるととんでもない神話がごろごろと出てきます。
興味を持った方はどうぞ検索してみて下さい。

どれもこれも、装備さえ揃っていれば何とかなる、というレベルの練度ではなく、
やはりこれは我が自衛隊がいかに精鋭集団であるかの証明ではないか、
と頼もしさにわくわくしてしまうわけですが、
先日観艦式の「ひゅうが」に乗艦し、なんとかこの「はたらくおじさん」たちを
目にすることのできる部署はないものだろうか、と艦内を探検していると、



操縦室・・・・・・だと・・・?

おまけに、この操縦室、見学が可能だと言うではないですか。
行くしかない!



昔カマ炊き、今操縦室。
ここのトップは機関長です。

何度も「ひゅうが」の組織図を出してきますが、

第一分隊 砲雷科
第二分隊 船務科 航海科

第三分隊 機関科
第四分隊 補給科 衛生科
第五分隊 飛行科


もちろんのことこれは第三分隊の機関科です。
現代のフネは機関科の仕事も楽になったもんだのう、皆画面見てるだけじゃないか、って?

確かに一見暇そうです。

しかし、ここはこの巨大な艦を動かす動力に関することや、電気、水、燃料をコントロールする、
フネの心臓部とも言うべき部分。
当然ですが、モニターを見ながらこっくりしようものなら、ノートを開いて後ろから
まんべんなく見張っている機関長のカミナリが落ちてくるのです。(たぶん)

そして、現代科学の粋を集めた護衛艦といえども、人間の動かすものである限り、
不具合が起こらないという保証はどこにもありません。
不具合が起こり万が一推進力を失ったフネは、ただの浮かぶ鉄のかたまり。
そうなってしまうことは機関科の最も恐れることなのです。



この観艦式の日、見学可能なこの機関室部分には入れ替わり立ち替わり人が訪れ、
機関長の説明を聞いたりしていましたが、応対するのは常に機関長。
他のみんなもモニターを見る合間に接客出来そうなものですが、そうもいかないようで、
ただひたすら画面を眺め続けています。

しかし、耳は空いているので、見学者と機関長の会話は結構ちゃんと聞いておられる模様。
例によって一般の女性客にしてはあまりにしつこく?質問を続けていたエリス中尉ですが、
説明の途中で機関長が(機関長ですよね?)

「例えばあそこのモニターですが・・・」

と前方を指さすと、そこにいた隊員はさっと身体を横によけ、見やすいようにしてくれました。

フネが何の問題もなく動いているときは暇に見える機関科ですが、いざ何かあったとき、
―例えば戦闘とか―ダメージを受けた箇所に飛んでいって補修をするのも機関科です。
火災、浸水、このような艦内災害に対応するのもここ。

何日か前、火事を消火している部署を「船務科ではないか」などと書きましたが、
やはりそれは機関科のお仕事であったようです。

ちなみにその「船務科」ですが、電測、通信、暗号、航空管制を行う分隊です。
なんとなく「雑用係」だと思っていたのですがとんでもなかったですね。
失礼しました。

このときに、
「もし電気系統がオールロスしたらどうなるのですか?」
と聴いてみました。
すると
「予備の電気があります」
「もし予備の電気も使えなくなったらどうするのですか?」

この質問をしたとき、モニターを見ていた一人が振り返ってこちらを見ました。
なんだよ~。
わたし、なんか変なこと聞いてます?

「全てだめになったら、最後の手段は手動です」

それはあれですか。
「バトルシップ」で戦艦ミズーリを出してくるようなものですか。
手動の訓練もちゃんと日頃しているのでしょうね。



あれ?
えんま帳を広げている人じゃなくて、この三本線が機関長かな。

ところで、誰でもウェルカムなこの日の機関室でしたが、説明してくれた方によると、
「軍機密に(とは言ってません。念のため)関わる箇所はちゃんと隠してある」とのこと。

たとえば、



エンジンの説明パネルが何枚も貼られているこの部分、
この下には何が?

「艦の最高速度や航行に関する性能は秘密です」

ふんふん。
わたしがかりに中国の女スパイだったとして、
何が知りたいかというと、尖閣や中国海域まで、
このフネが補給無しでどれくらいの速さで近づけるかということでしょうか。

護衛艦の情報というのは基本的にオープンですが、
とくに「軍艦」としての能力、ミサイルの到達距離とか、
探知の可能範囲とか、そういったことは国内に対しても秘密なのですね。
当たり前と言えばあたり前の話です。



むかしは機関科は「海軍機関学校」出身が指揮官となったのですが、
その機関学校は舞鶴にありました。
ところで旧軍の軍人の話で、
「舞鶴出身はよく殴った」
というのをどこかで読んだことがあります。

昔の機関科は、フネの底で(今も底と言えば底ですが)、戦闘が上で行われている間、
ただひたすらフネを動かすことだけに専念し、しかし自艦の操艦や砲術が功を奏さないときは
真っ先に沈んで助かる可能性のまず無い配置でした。

つまり、自分たちの力ではどうしようもないところに運命を委ねて、
それに身を任せるしかなかったということも出来ます。

ですから、機関科の戦闘員は、常に「肝を練る」ことに腐心していたと言われます。
そのせいなのかどうか、舞鶴の海軍機関学校卒の士官は、部下を徹底的に、そして
「問答無用」で殴る者が多かった、という話でした。

平和なこの時代にそんな切羽詰まった任務意識は持っていないだろう、というのは
あくまでも外部の人間の考えに過ぎません。

今現在でも、ソマリアには「まきなみ」と「ゆうぎり」(いずれもDD)、
航空部隊は第五航空群第五部隊が派遣されていっています。
現地では常に緊張の連続でしょうし、むろん機関科の隊員はいついかなる非常時にも
対応するため、「肝を練って」いるのかもしれません。




自衛隊観艦式の模様、まだ続きます。
次回予告:

2012年10月8日。
「ひゅうが」艦上で、エリス中尉が直筆のサインをもらった一人の自衛官が存在した。
それはいったい誰だったのか!?

待て次号!


でも、もしかしたら航空自衛隊の航空祭のことを先に書くかもしれない!
もしそっちが先になってしまったら、それは許せ!