ホレス・マッコイ『屍衣にポケットはない』
冒頭14ページでがっつり気持ちを掴まれた。この先には期待と楽しみしかない。
新聞社で働くマイクは何度もスクープをボツにされてきた。忖度する会社のせいだ。上司と喧嘩をしてついに会社を辞めることになってしまう。私物を片付けているところへ仲のいい同僚ビショップがやってくる。初めて会う女性マイラを連れて。
彼女はマイクの気持ちを見抜く。マイクは本当は不安でたまらない、上司に謝罪して復職したい、親友のビショップしかいなければ泣き言を言っていたはず。そんなマイクをマイラは「今にも編集長に泣きつきそうな顔をしている、そんな真似をさせては駄目」と外へ連れ出す。
マイラは言う。今朝はコーヒーを飲まなかったからビショップに会った、いつも通りに過ごしていたらビショップに会わず、マイクは仕事を取り戻していたと。
まるで先を見通せる能力があるようなマイラ。彼女はマイクにとって女神なのか。
マイクは苦労の末、自分が好きに書ける週刊誌の発行にこぎつける。それは街の有力者たちを怒らせる社会の暗部を暴露するものだった。
冒頭で掴まれた気持ちが少しずつ離れていく。
著者は何か気にかかることでもできたのか、話がだんだん漫然としてくる。
生き急いでいるマイクの苛立ちが空回りし、読者が置いていかれる。女神だと思っていたマイラさえも。そして命を狙われているマイクはさらに危険な行動をとるのだった。
装丁は新潮社装幀室。(2024)