ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

リーチ先生

2019-08-26 18:14:48 | 読書
原田マハ『リーチ先生』




 ハードカバーの本を買い、読まずにいるうちにその文庫本が出てしまうと悔しい。

 文庫用にデザインが一新されていればまだいいが、まったく同じ装丁だと少しがっかりする。

 書店で、平積みされた『リーチ先生』の文庫本を見つけた時も同じ。

 大事にしすぎて食べ頃を逸した、高級マンゴーを前にしているような気分。

 すぐに分厚く重い本を棚から出した。


 カバーは、明るい赤い地に、四角く窓が切り取られている。

 その中に描かれた素朴な動植物と、古い雰囲気の書体。

 全体に、リーチ先生が生きた、1920年代に存在したであろう書籍を思わせる。


 タイトルの「リーチ先生」とは、バーナード・リーチのこと。

 名前は知っているが、その人生は、ほとんど知らない。

 民藝運動とどんな関わりがあったのか、そんな興味を持って読み始めた。


 小説という形を取っているので、多少の脚色はあるだろうと思っていた。

 記録に残っていない会話、日常の些細な出来事、それに対する思い。

 作家の想像力がそこに注がれる。

 ところが、読んでいる途中で気になったことがあり、調べた事実に愕然とした。

 この小説の中で中心人物の一人、リーチ先生の弟子が、実在しないらしいのだ。

 固いコンクリート造りだと思っていた橋が、砂で造られていたと知らされたほどの衝撃だ。

 この小説は、どこまで信じていいのだろう。


 ただ、歴史的事実を確認しようなど考えず、気楽に読むには面白い。

 悪人が登場せず、師弟愛は涙を誘うのだから。


 装丁、装画は佐藤直樹氏。(2019)